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~Prologue~
少し伸びた髪を無造作に耳にかけ
シエルはカルチェ・ラタンの街を急いだ
ざっくりとした生成り色のサマーニットがよく似合う
まるでこの学生街の住人のようだ
リュクサンブール宮殿を臨むホテルから歩いて数分の古書店
そこで彼が待っている
急な予定変更で到着が遅れたのは悪かったけど
どうしてホテルで待っていてくれなかったのか
シエルはほんのちょっと恨めしく思った
『ホテルで待っていてくれれば今頃は・・・・・・』
賑やかな通りを抜けて細い路地を入ると
ツタの絡まる年季の入った古書店が目に入る
有名なファンタジー映画を思い出すような
古めかしいその店のドアをゆっくりと押し開く
少し錆び付いたドアチャイムの音と共に
シエルは古書店へと入った
見上げるほど高い書架に堆く積まれた古書
少しの振動で今にも崩れ落ちて来そうで
シエルは息を整えながら店内を見渡した
カウンターの椅子で居眠りをしていた店主が
店の奥に軽く顎をしゃくってみせる
もうすぐ彼に会える・・・・・・
シエルの胸は高鳴った
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