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「──というわけで、皆、慣れない船旅で退屈しきっている。このままでは団員達の士気に関わる。航海にも支障をきたすかもしれない……というわけでオルペ、なんとかしてくれ」
そこで、金髪碧眼のイケメン団長ハーソンが白羽の矢を立てたのは、もと吟遊詩人のオルペ・デ・トラシアであった。
かつて、羊角騎士団入団前には吟遊詩人をしてはいたものの、じつは神聖イスカンドリア帝国領内にある領邦の王族出身であり、ブロンドの巻毛に甘いマスクの美形な優男だ。
「いや、なんとかしてくれと言われても……」
「なに、難しいことを頼んでいるわけではない。いつもの宴の時のように歌ってくれればよいのだ。ただし、今回はもっと大々的にな」
そんなことを突然言われても…と困惑するオルフェに、今度は口髭を生やしたダンディなラテン系副団長、ドン・アウグスト・デ・イオルコがハーソンに代わって具体的な補足を加える。
「つまり、リサイタルを皆の前でやってほしいのだ。いうなれば吟遊詩人・オルフェ・デ・トラシア船上リサイタル公演だな」
「力不足ながら、わたしとプロスペロモさん、イシドローモさんも昔とった杵柄で、開式の聖歌の音頭を執らせてただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
アウグストの説明に続き、今度はもと魔女で修道女でもあるという、けっこう情報が渋滞している来歴の魔術担当官メデイアが、そう言ってアウグストに頭を下げる。
プレスペレスとイシドローモも修道士の出身であり、三人は聖務の一環として一応、聖歌にも俗人よりは長じている。
「なんだ、そういうことですか。それでしたらお安い御用です。私も変化のない船上生活に飽き飽きしてたとこですし、ここはパーっと祭りといきますか!」
詳しい説明を聞くと、もと吟遊詩人として団内でも楽士のような役割を果たしており、もとよりお祭り好きなオルフェとしては断る理由もない。彼は快く引き受けると、退屈しのぎのための船上リサイタルが開かれる運びとなった──。
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