La Recital a Bordo 〜船上のリサイタル〜

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「では、我らが楽士殿の美声を楽しむ前に航海の安全と海賊討伐の成功を祈り、皆で神に聖歌を捧げよう!」   拍手に見送られて奥へ下がるハーソンに代わり、再び現れたアウグストが指示を出すと、メデイア、プロスペロモ、イシドローモが前に出る。  普段と違い鎧と白い陣羽織(サーコート)を脱ぎ去ると、メデイアは黒い修道女服、坊主のプロスペロモとオカッパ頭に頭頂部を剃ったトンスラ頭のイシドローモも、黒い神父の平服を纏っている。そんな恰好をしていると、まさに聖職者といった感じだ。 「コホン……それでは、1(ウノ)2(ドス)3(トレス)でいきますぞ? 1、2、3っはい! 神の〜子羊〜世の罪を〜除きたまう主よ〜…♪」  プロスペロモの音頭でメデイア、イシドローモも唄い出し、それに合わせて甲板上の団員達も合唱を始める……重厚なメロディと重なり合わされる騎士団の声に、アルゴナウタイ号は一転して荘厳な雰囲気に包まれた。  ちなみに選ばれた曲は騎士団の名にかけて「神の子羊」という讃歌だ。  エルドラニアは敬虔なプロフェシア教国であり、また、白金の羊角騎士団はもともと護教騎士団であるため、こうして娯楽的な行事に宗教儀礼を取り入れることもままあることである。 「さて、神に聖歌も捧げたところでいよいよ本日の主役のご登場といきますか……我ら白金の騎士団が誇る騎士にして楽士〜っ! 吟遊詩人(バルドー)〜オルペ・デ・トラシア〜っ!」 「いや〜紳士(セニョーレ)淑女(セニョーラ)の皆さーん! 今夜はお集まりいただきありがとう(グラシアース)! そんじゃ、張り切っていってみますか。最初は景気づけに、今、新天地で流行ってるという歌姫カンショーナの〝ヌエバ・エラ〟〜っ!」  アウグストの呼び出しに、ワーワー、ヒューヒューとまたしても大歓声が上がる中、燈る無数のランプに照らし出されて船尾楼に現れたオルペは、挨拶もそこそこにポロン…と竪琴(リュラー)を鳴らし、早速に一曲目を唄い始める。 「新世界は〜この天地だ〜世界中すべて壊してしまえばぁ…♪」  アップテンポなその曲に、船上を埋め尽くす団員達はますますもって盛り上がりを見せる。 「おい、これってもとは海賊の歌じゃなかったか?」  しかし、多くの者達が浮かれ騒ぐ傍ら、海賊討伐部隊としての立場上、少数ながらもそんな苦言を呈するような真面目な者もいる。
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