La Recital a Bordo 〜船上のリサイタル〜

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「まあ、固いこと言うなって。今じゃカタギの間でも大人気だろ? 盛り上がりゃあなんでもいいのさ」  だが、昂る興奮と快感に支配されたフェス会場で、そのような瑣末な問題は一蹴された。 「──どうもありがとおー! それじゃ、今度は海にちなんで、全世代に人気を誇るトダス・ラ・エステレラル・デル・ソウルの〝波乗りホニー〟!」  満天の夜空の下、気持ち良さそうに竪琴(リュラー)をかき鳴らしながら、オルペは次々と名曲を弾き語りしてゆく。 「──では、続きまして。今度は航海にちなんで〝新天地航路〟! ……晴〜れた空〜そ〜よぐ風〜…♪」  情緒ある竪琴(リュラー)の音とオルペの美声に(いざな)われ、観客達の歓声と拍手はいつまでも止むことがない。 「さて、吟遊詩人(バルドー)といえば、やはりお客のリクエストを受けてその曲を奏でるのが世の常……皆さん、何か聞きたい曲はありますか?」  そうして熱狂がピークに達したところで、オルペは趣向を変えて眼下の聴衆にリクエストを問う。 「なんか月にまつわる曲はないのか〜? 今夜は月が綺麗だから、なんか月にまつわる曲を頼む〜!」  すると、蠢く白づくめの人の波の中からは、そんな声がすぐにあがってくる。確かに今宵は満月に近く、なんとも美しい月夜だ。 「うーん、月の歌かあ……月っていえば、あの曲が思い浮かんだけど、あれは唄うと幽霊呼ぶって話もあるしなあ……ま、そんなの迷信か……よし! それじゃ次はレベカの〝ルナ〟です! 聞いてください……」  その客からのリクエストに、明るい月を見上げながらブツブツ呟いたオルペは、逡巡の後に曲をチョイスすると、またポロン、ポロン…と竪琴(リュラー)を奏で始める。 「……昔まだマンマが若くて〜小さな俺を抱いてた〜…♪」  少し淋しげなその曲調に、一変して聴衆達はしんみりとオルペの歌に聞き入る……だが、その時だった。
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