La Recital a Bordo 〜船上のリサイタル〜

6/11
前へ
/11ページ
次へ
「船だぁぁぁ〜っ! 右舷後方より正体不明の船影接近ぃぃぃ〜ん!」  突如、メインマストの檣楼に立って見張り番をしてた団員の大声が、そのしんみりとした船上の静寂を場違いにも(つんざ)く。 「右舷後方より船接近ぃぃぃ〜ん! ものすごい速度で近づいて来るぞぉぉぉ〜っ!」 「なに?」  その危機迫る見張りの声に団員達は一斉にそちらを振り向き、ステージの奥で歌に耳を傾けていた団長ハーソンも急いで船尾後方の縁に取りつく……すると、確かに一艘の黒い船影が波を切り裂いて近づいて来ていた。  どうやらよくあるタイプのガレオン船らしいのだが、その姿はじつに異様だ。砲撃戦でもやってきたのか? 船体はあちこち穴が空くと棘のように木材が飛び出し、黒く塗られた帆はビリビリに破けてたなびいている。 「あの異様……海賊船ですかな?」 「なんだか禍々しい空気を感じます」  同じく縁に駆け寄ったアウグストはその正体を海賊だと断じ、勘の鋭い魔術担当のメデイアも何かを感じとっている。 「いずれにしろリサイタルは諸事情により休止のようだ……全員、緊急事態だ! 至急、迎撃体制をとれっ! 右舷、全カノン砲発射準備ーっ! ティヴィアスはアンケイロスとともに船の制御だ!」  突然の事態にハーソンは即座に判断を下すと、矢継ぎ早に指示を飛ばす。 「オルペ、すまんな。そんなわけなんでおまえも迎撃に向かってくれ」 「ハァ…せっかくノってきたとこだったのに……ま、チケット払い戻しも面倒ですし、チャっチャと邪魔者を追っ払って演奏再開といきましょう!」  ハーソンが申し訳なさそうにオルペにも言うと、彼は冗談めかした口調ながらも不機嫌そうに言葉を返し、船尾楼の階段を下の甲板へと駆け降りてゆく。 「アウグスト、砲撃の指揮を執れ! メデイアは念のため、魔術的処置を頼む!」 「ハッ!」 「かしこまりました!」  そして、二人の側近にもそう告げると、ハーソン自らも甲板の右舷側へと向かった……。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加