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「船だぁぁぁ〜っ! 右舷後方より正体不明の船影接近ぃぃぃ〜ん!」
突如、メインマストの檣楼に立って見張り番をしてた団員の大声が、そのしんみりとした船上の静寂を場違いにも劈く。
「右舷後方より船接近ぃぃぃ〜ん! ものすごい速度で近づいて来るぞぉぉぉ〜っ!」
「なに?」
その危機迫る見張りの声に団員達は一斉にそちらを振り向き、ステージの奥で歌に耳を傾けていた団長ハーソンも急いで船尾後方の縁に取りつく……すると、確かに一艘の黒い船影が波を切り裂いて近づいて来ていた。
どうやらよくあるタイプのガレオン船らしいのだが、その姿はじつに異様だ。砲撃戦でもやってきたのか? 船体はあちこち穴が空くと棘のように木材が飛び出し、黒く塗られた帆はビリビリに破けてたなびいている。
「あの異様……海賊船ですかな?」
「なんだか禍々しい空気を感じます」
同じく縁に駆け寄ったアウグストはその正体を海賊だと断じ、勘の鋭い魔術担当のメデイアも何かを感じとっている。
「いずれにしろリサイタルは諸事情により休止のようだ……全員、緊急事態だ! 至急、迎撃体制をとれっ! 右舷、全カノン砲発射準備ーっ! ティヴィアスはアンケイロスとともに船の制御だ!」
突然の事態にハーソンは即座に判断を下すと、矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「オルペ、すまんな。そんなわけなんでおまえも迎撃に向かってくれ」
「ハァ…せっかくノってきたとこだったのに……ま、チケット払い戻しも面倒ですし、チャっチャと邪魔者を追っ払って演奏再開といきましょう!」
ハーソンが申し訳なさそうにオルペにも言うと、彼は冗談めかした口調ながらも不機嫌そうに言葉を返し、船尾楼の階段を下の甲板へと駆け降りてゆく。
「アウグスト、砲撃の指揮を執れ! メデイアは念のため、魔術的処置を頼む!」
「ハッ!」
「かしこまりました!」
そして、二人の側近にもそう告げると、ハーソン自らも甲板の右舷側へと向かった……。
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