謎の少女

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謎の少女

 突然稚い少女の声が降りかかり、海聖とアルバは同時に声の主を見上げた。  歳はまだ小学生くらいだろうか、腰の丈まである金髪を左右で括っており、こちらをじっと見つめるつぶらな瞳は夕焼けの色をしている。  驚いたことに、可愛らしいベージュのワンピースを身に纏う彼女は、スクーターに似た飛行型乗用機に足を付けており、空中に佇んでいた。 「あっ、もしかしてお邪魔だったかナ?」  こてんと可愛らしく小首を傾げる謎の闖入者に、海聖は警戒しつつ誰何(すいか)する。 「えっと、あなたは?」 「汐見(しおみ)セーラ!」 「セーラ……ちゃんは」 「うん、ハーフだヨ! お母さんがイタリア人で、お父さんが日本人なノ」 「あ、そう、なんだね。まだ何も聞いてないけど」  屈託の無い無邪気な笑みで答えるセーラに、海聖はぎこちなく答える。  ――この子も、イタリア人と日本人のハーフ?  海聖は反射的にアルバを見た。  彼もまた海聖の視線に気づき、動揺の面持ちを隠せないまま向き合う。 「いえ、全く知らない子です。僕も驚いていたところで……」  二人が確認し合っていると、セーラは「ン?」とアルバに視線を移す。 「お兄ちゃん、もしかしテ……」 「え?」  何かに気づき驚いた様子のセーラに、アルバは困惑を隠せない。  海聖も少女の素性と今置かれている状況を呑み込めず、疑問符を浮かべるばかりだった。 「お兄ちゃんもイタリア人? それかハーフ?」 「そ、そうだよ。僕も君と同じ、イタリア人と日本人のハーフだ」 「へぇ~」  セーラの口角が吊り上がり、 「ここにいたんだネ。〈〉」  目を細めてアルバを見据える。  先ほど見せていた無邪気な笑みとは違い、どこか愉悦と狂気に満ちた不気味な微笑だった。  アルバと海聖はその変貌ぶりに身の毛がよだつ。 「〈太陽〉って、一体何のことだい……?」 「あれ? お兄ちゃん、何も知らないノ? おかしいナ、確かに〈太陽〉の気配がするんだけド……」  僅かに震えを帯びたアルバの問いかけに、セーラは頬を人差し指で押さえて再度首を傾ける。 「お兄ちゃんはネ……」  溌溂とした声音でそう言いかけた後、「やっぱりやーめタ!」と打ち切った。 「お兄ちゃんはたぶん、じゃないような気がするかラ」 「それって、どういう……」  曖昧模糊とした発言にアルバと海聖が翻弄されていると、セーラはにやりと更に口の端を吊り上げ、海面に向かって右手を翳した。  途端、月光照明弾の影響で煌々と輝いていた海が次第に元に戻っていく。  弾けた月光が吸い込まれていくようにセーラの掌へと立ち昇り、球体となって彼女の手に収まった。 「照明弾が!」 「あの子は一体……!?」  海聖たちが信じられないと言わんばかりに愕然としていると、セーラは乗用機を方向転換させて背を向ける。 「どれだけ科学技術が発達しても、自然の神秘はずっと消えなイ」  神妙な呟きに海聖たちは終始疑問符を浮かべている中、セーラは振り返ってあどけない笑顔を見せる。 「そろそろ行かないト……。じゃあ、またどこかで会えるといいネ!」 「ちょっと待って!」 「セーラに構ってる暇は無いんじゃなイ? ほら」  セーラが指さした方角には、数多の海魔が姿を現わしていた。  謎の少女による謎の力によって月光照明弾が無効化されたことにより、海魔が海聖たちの気配を察知して深海から浮上してきたようだ。  凄まじい速度でこちらに猛進してきている。 「チッ!」 「じゃ、バイバーイ!!」 「あっ……!」  海聖が舌打ちすると同時に、セーラは突風のようにその場を去った。  海聖もアルバも少女を引き止めようとしたが、今は彼女よりも海魔の対処だった。    ――少なくとも十匹以上はいる!  最強の女騎士でも、一人で同時に十匹以上相手をするのは多勢に無勢だった。  その上月光照明弾も先ほど放ったものが最後で、新たな海魔の出没を阻止する手立てが無い。 「真潮さん、一旦ここから退きますよ。あの数では流石の私でも捌ききれない!」 「っ……分かりました!」  海聖は煙幕を放ち、海魔が自分たちを見失っているうちに全速力で基地がある方へと退散した。  何とか海魔を撒けたことに安堵しつつも、アルバとのわだかまりやセーラと名乗った少女の正体が脳内を席巻する。  帰路は両者共に沈黙を貫き、それぞれ複雑に絡み合った今日一日の出来事を整理するのに必死だった。
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