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騎士の使命
陸上にある本部に向かう前に、海聖は一旦最上階にある執務室に戻った。
ドアを開けて中に入ると、来客用の椅子に座っていた人物がこちらに視線を寄せる。
海聖が助けた女性――優里だ。
彼女の両腕の中には、息子である優希がすやすやと寝息を立てている。
「海聖さん」
「お待たせしてしまいすみません」
「いえ。丁度この子を寝かしつけていたので大丈夫です」
そうですか、と海聖は微笑を浮かべて、優里と対座する形で自身も腰を下ろす。
「今後の予定についてですが、優里さんたちにはしばらくこの基地に滞在していただきます。月光灯消滅の原因が解明されるまでは、ご自宅も安全とは言い切れませんから」
「そうですか……」
海魔は人間の気配を察知する能力に長けている。
故に、優里たちの自宅が辛うじてまだ崩壊していないとはいえ、月光灯が点かない家に彼女らを帰すとなると、また同じ目に遭わせてしまう危険があった。
「なるべく早くご自宅に帰れるよう、こちらも最善を尽くします。また、恐怖体験によるショックやフラッシュバックで精神的なダメージを負った被害者も一定数いらっしゃるので、もしそのような不安や悩みがありましたら遠慮せずに申し出てください。基地にはカウンセラーも沢山いますから」
「はい。ありがとうございます」
優里の疲れ切った笑みに海聖は一瞬哀切の色を浮かべるが、すぐに力強く頷いて再度腰をあげた。
「すみません。これから所用で本部の方に出向かないといけなくて……。この後、部下が優里さん達をお部屋に案内するので、何か分からないことがあったらその者にお尋ねください」
「分かりました」
海聖さん。本当に、ありがとうございました。
優里もまた立ち上がって、深々と首を垂れた。
それに対し、海聖は「いえ」とかぶりを振る。
「一般人の生活と世界の安寧を守る――。それが私たち騎士の使命ですから」
意志の強い眼差しを受け、優里は感心したふうに言う。
「海聖さんは凄いですね。まだ十八歳とは思えない程しっかりされていて、その上海域長だなんて」
「いいえ。私なんてまだまだです」
少なくとも、両親や祖母には敵いません。
己の顔に僅かな影を落とすや否や、こんこんとノックの音が室内に響いた。
双方共にドアの方へ顔を向け、海聖は「どうぞ」と入室許可を出す。
失礼します、と女性の声が聞こえ、ぎいとドアが鳴いた。
「阿辻海域長。優里さんをお迎えにあがりました」
「分かった。それじゃあ、優里さん。一緒に下まで降りましょうか」
「はい」
*****
一階のロビーまで降りたところで、海聖は優里たちが女性騎士の案内を受けながら去って行くのを見送り、そのまま地下へと移動した。
地下はそのまま海に面していて、普段騎士たちが警邏や偵察に使用する水上バイクや電動サーフボード等を停泊させている。専用のカードキーを認証パネルに提示すれば、海門が開いてそのまま外に出れる仕様だ。
海聖は愛機に乗り込み、電気エンジンを始動させる。
常に腰に帯びている十字剣や、愛機に装備している狙撃銃など諸々の武具や道具があることを確認し、海門の方へバイクを動かした。
慣れた動作でカードキーをパネルに当てると、緩慢な動きで海門が開き眩しい光が視界を覆う。
「海域長!」
「本日の巡回は終わったはずでは?」
そこで、海門警備の男性騎士二人が驚いたように声をかけてきた。
「さっき本部から呼び出しがあってね。少しの間ここを留守にするから、引き続き警備を怠らないように」
「はっ!! お気をつけて」
男性騎士たちの敬礼に見送られながら、海聖はフルスピードで陸部を目指した。
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