紙飛行機

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 夏期講習で会えない日は深夜0時になると飛行機が窓を叩いた。 莉子 会いたい  私もそれに倣いノートを破って紙飛行機を作った。蔵之介みたいに上手く折れない私の紙飛行機は右に左によろめきながら路地に不時着した。 蔵之介 会いたい  すると蔵之介は手招きをした。私が腕でバツ印を作ると泣き真似をして見せた。時計を見ると午前0時30分、家族が寝静まる時間まで後少し時間が必要だった。私は不恰好な飛行機を飛ばした。 後で降りて行く 30分待てる?  蔵之介は飛び跳ねながら大きな丸を作った。 (ーーー可愛い)  私は部屋着から動きやすいジーンズと黒いフード付きのTシャツに着替えた。鏡を見て髪を整え薄紅色に色付くリップスティックを塗った。親に気付かれない様にベッドにクッションを並べてブランケットを掛けた。 「よし、これで私はここに寝ている!」  部屋の扉を音を立てない様に開けて静かに閉めた。親たちの部屋からはイビキが聞こえ、弟の部屋は真っ暗だった。手すりに掴まりながら階段を降りたが緊張で耳の中はぼんやりして口の中がカラカラに乾いた。 (もう少し!)  玄関の三和土(たたき)でスニーカーを持つと台所の勝手口のドアノブに手を掛けた。ゆっくりゆっくりと開けて静かに閉めた。 カチャン  私は素足のまま路地に出て慌ててスニーカーを履いた。家の垣根を曲がるとコンクリート壁に寄り掛かり携帯電話を指でスライドさせる蔵之介が居た。 (蔵之介!) (莉子!)  小さな声で呼び合い一目散に大通りへと向かい走った。静かな街にチェーンリングが回る音が響いた。大通りの商店街に人の気配はなく車が一台通り過ぎただけだった。 「会いたかった」 「うん」  私と蔵之介は見つめ合い抱き合って口付けを交わした。
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