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アンティーク
6月29日 土曜日
薄曇りの土曜日、午後の降水確率は20%と微妙だった。
「こんな日に行くの?」
「仕事だし仕方ないよ」
「大変だぁ」
「大変なんですよ」
直也はリビングのソファに腰掛けると会社の接待でカントリークラブに行くのだと渋々準備を始めた。私は山間のゴルフコースは冷えるだろうとナイロンジャケットを畳んで鞄に詰めた。
「ありがとう」
「御所町は寒いからね」
「さすが莉子、優しいなぁ」
「優しいでしょ」
玄関先で送り出すキス、私を抱きしめた腕の力がいつもより強かった。手を振る日常にひらりと飛んだ紙飛行機、微妙な心の騒めきを攪拌する様に私は洗濯機を回した。
(掃除機は月曜日にしようかな)
確かに直也が心配する通り蔵之介の姿を見てから眠りが浅い。夢の断片で18歳の自分が笑い、怒り、悲しみそして絶望していた。
(なにを考えているのよ)
ピーピーピー
洗濯機が仕事を終えたと私に告げたが重い腰はソファに沈み込み立ち上がる事が出来なかった。
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