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獅子座の流星群を見る事が叶わなかったあの深い夜、私と蔵之介はそれぞれの救急車に運び込まれ別々の病院に搬送された。
蔵之介は3ヶ月後に退院したが私たちは会う事を禁じられた。右半身が覚束無い蔵之介は高等学校を休学し、私は東京の大学に合格した。
2度と会う事はないとそう思っていた。
「はい、500円のお釣りです」
無愛想な青年は私に銀色の硬貨を握らせると広げていた店を片付け始めた。動作はぎこちなく右脚を引き摺っていた。その姿を見た私は喉の奥が熱くなり胸が締め付けられた。
あの夜、蔵之介に会いに行かなければ
あの夜、星を見に行かなければ
この17年間後悔しない日はなかった。けれど蔵之介は私を覚えていなかった。私は一瞬で蔵之介だと気付いたが彼はそんな素振りすら見せなかった。
(そんなに私、変わってしまったのかな)
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
私の心はあの自転車のホイールの様に押し潰されて歪になった。青い芝生を踏む音、チクチクと痛む感触、レンガ畳みの現実に足を踏み入れた瞬間、ベージュのスニーカーの横に何かが落ちた。
紙飛行機
振り返ると半袖にジーンズ姿の青年は深々とお辞儀をした。涙が溢れた。丁度停留所にバスが到着した。私は紙飛行機を摘むと踵を返してバスに飛び乗った。
会ってはいけない
本能がそう言って私をあの場所から引き剥がした。車窓に遠ざかる色彩豊かなフラッグが滲んで見えた。手にした紙飛行機はティーカップを包んだ英字新聞と同じだった。慌ててちぎったのだろう折り目は不揃いだった。
(ーーーなんだろう)
赤い筋が見えた。紙飛行機を破らない様にそっと開くと赤い油性マジックで携帯電話番号が書かれていた。
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