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 そんなある日のこと。  城のなかで、(うたげ)がもよおされた。手強(てごわ)い隣国を打ちまかした、祝いの宴である。  まっ昼間から、城内の広間で、家臣たちが酒を飲み、女たちが歌い踊った。  王と妃と姫は、玉座にあって、酷薄(こくはく)な笑みを浮かべていた。  そのときふいに、王は、あの「悪魔の力」が働くのを感じた。  まっ黒なものが頭上いっぱいに広がり、自分のほうへと迫ってくる。  そんな光景が見えたのだ。 「ぬっ、これは……?」  王はうめいた。  見えたものは、いまひとつはっきりとしなかった。だが、これまでの経験から、我が身にふりかかってくる危険であることは、間違いないはずだ。  少し考えた王は、すぐに悟った。まもなく、城の天井が落ちてくるのだ、と。 「皆の者、広場へ逃げろ!」  王の命令で、妃も、姫も、家臣たちも、広場となっている中庭へと逃げ出した。  ほとんどの者が無事に逃げ終わるやいなや、地震が起きた。地面が大きく揺れる。人々が悲鳴をあげた。見ると、城の建物が激しく揺れ、きしんでいた。  しばらくすると、揺れがおさまってきた。  城内に残っていた家臣が、飛び出してきて、王に報告した。 「申し上げます。いまの地震で,広間の天井が崩落(ほうらく)しました。あのまま、広間に残っていたら、大惨事となっていたことと思われます」  これを聞いた王は、ニヤリと笑った。 「また間一髪助かったな。なんと素晴らしい力だろうか」  王は久しぶりに、かつて処刑した魔女のことを思い出した。そして、思った。  やはりあの女、殺される恐怖で錯乱して、わけがわからなくなったのだろう、だから、おれを呪うつもりが、間違って、こんな素晴らしい力を与えてしまったのだ、と。  が、そのときだった。
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