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 いままさに、処刑が行なわれようとしている。  屈強な兵士たちが、ひとりの少女を、村の広場に引きずり出した。縄で縛られたその少女は、まだ十歳だった。彼女は泣き叫び、暴れたが、兵士たちの手から逃れることはできなかった。 「リーゼ! リーゼ!」  同じ広場の端で、母親が、狂ったように娘の名前を呼んでいた。母親の身体も、娘と同じように縄で縛られ、兵士たちに押さえつけられている。 「母さまぁっ!」  叫ぶ少女は、兵士たちの手によって、切り株状の断頭台に、その首を押さえつけられた。 「ああっ、リーゼ、なんてこと。王さま」  泣きながら、母親は、かたわらにたたずむ王のほうを向いた。「王さま、お願いです。わたしはどうなってもかまいません。ですが、どうか、娘だけは助けてやってくださいませ」  しかし王はすげなく答えた。 「ならぬ」  そうして、あたりを睥睨(へいげい)した。  娘と母親、兵士たちと王、彼らを遠巻きに囲むように、村人たちが(おび)えた表情で立っていた。彼らの向こうには、村の家々が建ち、さらに向こうには、高い木々の茂る森が見えた。  王は、村人たちにもよく聞こえるようにと、声をはりあげた。 「よいか、森の魔女、ヘレーネよ、このあたりの村人どもは、お前を恐れる一方で、お前を(うやま)ってもいる。それではいかぬ。無知な村人どもに、この国の真の統治者が誰か、知らしめねばならぬのだ」  そう言うと、王は、少女リーゼの横に立つ兵士に、命令した。 「やれっ」  兵士は、持っていたマサカリを振り上げ、無慈悲に振り下ろした。  少女の首が飛んだ。  娘の死を見て、母のヘレーネは、身も世もなく泣き声をあげた。  兵士たちは、慣れた手つきで少女の死骸を片づけた。次に、ヘレーネを引きずっていき、血で濡れた断頭台に押さえつけた。  ヘレーネは、わずかに動く首を持ち上げ、王をにらみつけた。 「おのれ、王よ、この恨みは、きっとはらす。お前に、悪魔の力を植えつけてやる」 「悪魔の力だと?」  聞いた王は、ふん、とせせら笑った。それから、兵士に合図した。  兵士は重いマサカリを振り上げると、ヘレーネの首めがけて、振り下ろした。  にぶい音をたてて、ヘレーネの首も飛んだ。  こうして、魔女は死んだのである。
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