フォロワー

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「はい、チーズ!」    スマホを付けた自撮り棒を片手に、みかんの猫なで声が触れ合う頬を通じて聞こえる。私は大量のチーズが載っかったピザを両手に持ち、スマホのカメラに向かって笑みを浮かべた。 「チーズだけにってか」 「ははは、しょうもな」 「うるさい」  私の渾身のギャグは、みかんにははまらなかったらしい。放課後、私と同級生のみかんはSNSで話題の喫茶店へと赴いている。ここは大量のチーズが載ったピザが看板メニューで、SNSにあげるための写真を私たちは撮りに来ていた。  みかんは自撮り棒からスマホを外し、慣れた手つきで操作をしている。少しして、私のスマホが鳴った。確認してみると、みかんのSNSでのアカウント名『オレンジ』からの通知だった。そこにはさっきの写真がちょこっと加工して載っていた。 「いい感じでしょ」  いつの間にか操作を止めていたみかんが、私を見つめていた。 「んー、そうね」 「反応うっすー。まあ、胡桃(くるみ)のおかげでフォロワーも稼ぎ放題だし助かるわ」  私はみかんのあげた写真を眺める。名前の通りオレンジ色に髪を染めたみかんと、仲良さげに隣に映る黒髪の私。  写真に対するコメントがもう付いていた。ほとんどが私たちの顔を褒めるものばかり。そう私たち。 「胡桃はもったいないよなー。こんなに顔が整ってるんだから、自分のアカウントで自撮りあげればいいのに」 「別にそこまでフォロワーにこだわってないから」  みかんの「えー」という納得のいってない返事が、店内に溶け込めないままふわふわと漂い、手元にあるピザの中へと吸い込まれる。  私は写真用に切り分けた一切れを口に運んだ。 「うはー、よく食べれるね」 「もったいないじゃん。持ち帰るにしても、一口も食べてなかったら失礼だし」 「けどさー、カロリーがなー」  私が一切れを頬張った後、残りは全て私が持ち帰った。  食べ物を粗末にしてまでフォロワーを伸ばすことに意味はあるのか。私の食べたピザのチーズは、冷えて伸びなくなっていたのに。  
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