炎上

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炎上

 みかんが炎上した。蜜柑が燃えたんじゃない。  きっかけは、ネットで拡散された過去のイジメ動画。みかんが主犯となって、複数人の女子が一人の女の子をトイレで追い詰めている。その音声付きの映像がネットに広まっていた。まるでみかんだけを狙ったかのように、他の女子にはモザイクとボイスチェンジが施されていた。  凄惨な動画は一瞬で広まり、みかんは学校に来なくなった。みかんがいないのに、クラスの話題はみかん一色だった。  みかんからの通話がくる。 「やばい胡桃、わたしどうしよう……」  涙声で、聞いたことのないほど暗い調子の声だ。 「確認したいんだけど、あれは本当なの?」  みかんの様子が電話越しでも伝わってくる。これだけ動揺していれば返答を待たなくてもわかる。 「……うん、本当。ごめんなさい」 「別に謝らなくていいよ。今はみかんが心配だから」 「ぐすっ、ありがとう。でもどうすればいいかな。もう生きていけないよ」  今にも死んでしまいそうなほどのか細い声。いつもはおちゃらけていて、クラスでも人気者で中心人物な『みかん』の面影は消え去っている。  でも、それがどうしたの。 「別にいいじゃん、生きれなくても」 「えっ? 何言ってんの」  みかんの困惑する表情を想像してニヤリと笑う。 「例え『みかん』として生きれなくても、『オレンジ』として生きればいいじゃん。学校なんて辞めて、ネットの世界に住めばいい、通えばいい」 「で、でもっ! わたしのアカウント見た?! どうしようもないくらいに荒らされてる! 大勢の知らない人たちや、ずっと応援してくれてた人たちまでわたしを非難してる!!」  驚いた。けれど同時に嬉しさがこみ上げてくる。  みかんはネットの世界を何よりも大切にしていると思っていたけど、案外染まりきってないのかもしれない。てっきり、私の提案に二つ返事で納得してくれると思ってた。  みかんはまだ現実と仮想を天秤で掛けたことがない。だから選択できない。 「んー、とりあえず今夜会おう。通話で話していても仕方がないよ。近所の公園なら一目にもつかないから」 「……わかった、迷惑かける」 「うん、じゃあまた」  通話が切れる。    とりあえず会ってみよう。話はそれからだ。  
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