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告白
夜の帳が下りた頃、私は公園の出来るだけ人目につかない場所でみかんを待った。約束の時間を少し過ぎて彼女は来た。
「ごめん遅れた」
遅刻の後ろめたさはあるものの、それ以上にみかんの声と顔には生気がなかった。暗がりでも頬の青白さが目立つ。
「それで……」
私はみかんが話すのを手で阻止した。彼女がうっとたじろぐ。
「何だよ」
「これ見て」
私はスマホの画面をみかんに見せた。それは彼女が炎上する原因となった例の動画だ。音声は消してある。
「っ?! 止めろ、見せんじゃねぇ!」
みかんが悪態をつきながらそっぽを向いた。よっぽどトラウマになってるみたい。冷たいけど、これをやったのは彼女自身なのに。
「これ拡散したの私だから」
私の声は閑散とした公園に驚くべき早さで溶けていく。けれどみかんは信じられないといった様子で私と、私の手に持つスマホを凝視した。
「は? 何言って……」
「だから私がこれをネットに投稿したの。みかんが炎上したのは私のせい」
みかんはまだ現実を受け止められていないようだけど、震える口を何とか動かそうとしてる。
「裏切ったのか、わたしを!」
「裏切る? そんなわけないない。私はみかんのためにやったんだよ」
我慢の限界か、みかんの手が私の肩をがっと掴む。至近距離の彼女の顔は、さながら鬼の形相のよう。目には涙が溜まってる。泣いた赤鬼? いや青鬼か。
「騙したんだろ! 友達だと思ってたのに!!」
「みかんがネットで楽しそうにしてるからさ、いっそのことネットでしか生きられないようにしてあげたんだよ」
ネットの世界も割と生きやすい。のめり込んでしまうのも理解できる。なんで怒るかな?
肩を掴んだままのみかんが、恐ろしいものを見るかのような表情を浮かべる。
「お前…狂ってる。私の知ってる胡桃じゃない」
「いや、私は胡桃だよ。もしかして、みかんがまだウォールナットだと思ってるんじゃない?」
「は? ウォール、何言っ……て?!」
みかんが何かに気づいたように、私の肩をぱっと離して仰け反った。やっと気づいたか。
「苗字も名前も一言一句変えてないのに気付かないんだもん。他人は勝手にハンドルネームを作って呼ぶくせに、自分の『みかん』は捨てられないんだもんね。ほんと呆れた」
言葉とは裏腹に、今の私は歓喜に震えている。まだ手遅れじゃない。みかんには、現実の尊さを知ってもらわないと。
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