《 2 》

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《 2 》

 あまり長居すると、おばあちゃんも疲れてしまうので頃合いを見計らって帰る、これがいつものパターンだ。 「それじゃそろそろ……」  ベッド脇のパイプ椅子から腰をあげようとすると、いつにもなく珍しく、おばあちゃんが私を軽く引き留めた。 「外は暑いよ、帰るの?」  時間に追われているわけでもなかったので、私はまた座り直し「まだいるよ」と答えた。すると、おばあちゃんは何かを思い出すように話しかけてきた。 「前によく聞いてた、あの、声がでるやつ。もう頭やっちゃってから言葉がよく出てこなくなっちゃって」  なんだろ。 「あの、ほら、縁側でスイカやらとうもろこしやら食べるときなんかよくそこに置いて音楽だの声だのでてたやつ」  ! 「ラジカセのこと?」  随分と古いところから持ってきたな。私が小学校に入る前あたりじゃないか? 「そうそれ、すぐ出てこなくなちゃう。一生懸命ラジオ録音してたでしょ、あれもうなくなっちゃったかな」  四十年以上も昔のことだよ、おばあちゃん。 「んー、分かんない。おうち行って探してみるよ」  再生ボタンと録音ボタンの同時押し。  ラジオから何が流れてくるか分からないからラジカセにはりついて、これだと思う曲を録音する、そんな懐かしい時代を思い出す。 「ふ〜ん、ふふふ〜ん、ふふ〜ん」  おばあちゃんがこれもまた珍しく鼻歌を歌いだした。あれ、ちょっと待って、この曲って。 「ひとつ録音したやつずっと聞いてたろ、こんな感じの曲。ふ〜ん、ふふふ〜ん。畑作業してても田んぼ行っても脇でずっと歌ってたもんねぇ」 「おばあちゃん……」  私の中でずっと彷徨い続けてたもの。定期的に記憶の中で鳴り出しては消えゆき、もやもやしつつ諦めていたもの。  レコードが買えるわけでもない子供時代、ラジオから録音した音楽はとても大切だった。曲の出だしはもちろん切れていたし、パーソナリティーの声だって入ってる。チューニングが悪いから高低音の波もすごい。  それでも私だけの大切な音楽だったから、いつだってそればかり歌ってた。  子供のころの記憶が大いに蘇る。  私はいつも、おばあちゃんという優しい揺りかごに守られて過ごしてきたんだ。 「おばあちゃんありがとう」  自然と口からこぼれたのは感謝の言葉だった。 「あたしが何かしたのかい? そう言えばね、ゲートボールで賞状もらったんだよ。車で二時間はかかるところまで行ってさ、県庁の──」 「そうなんだ、おばあちゃんってすごいんだね」  また来ます。
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