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終章 冬
終章 冬 6/25
眠りに落ちると、そこは雪の大地だった。
一面に広がる白の景色は砂漠のようで、地平線の彼方までもを白く染め上げている。
しばらく行くあてもなく歩いているとようやく枯れ木をひとつ見つけた。近づいて腰を下ろしてみると、頭上からいくつかチュンチュンと鳴く声がした。
「君、まだ生きていたのかい」
葉を失った木の、雑多な枝の群れの中にスズメが巣を作っていた。
声の数を聞くに恐らくは三羽。彼らは寒さに身を寄せ合いながら親の帰りを待っているようだ。
「それは違うよ、お兄さん」
突然、背後からした少年のような声に僕は少し驚いた。
「みんな今生まれた子たちさ。」
誰かがこの木の幹を挟んで反対側にいることに気がつき、僕は起き上がって声のする方へと移動した。
そこにいたのは服も、肌も、髪まで白い少年だった。
4、5歳に見える彼は白いキャソックのような物を着て、おもちゃのシャボン玉をただ作り続けていた。
「僕はここでシャボン玉を作ってるんだ、お兄さん」
少年は心底楽しそうに笑ってみせた。
「作るの、得意なのかい」
「いいや、ぜんぜん。なんかい作ってもこわれてしまうんだ」
少年は少し寂しそうな顔をして、またふう、とシャボン玉を作った。
今度は彼の眼の前で「ぱっ」と撥ねて消えてしまった。
子供らしい行動にふふっと僕は小さく微笑んだ。
わっと少年は目をしぱしぱさせ、ひとしきり目を擦ってから続けた。
「僕はいつかおそらにとどかせるのがゆめなんだ。そうして、またお星さまを作ってね、星座を作るんだ」
「へぇ、そうかい」
「そうすれば、もうお兄さんも寂しくはないでしょう?」
「そうだね。そうだ、うん。」
「まっしろい雪のなかじゃあ、夜がきたらなにもみえなくなってしまうもの。お兄さん、きみには星がひつようだ」
「どうも、有難う」
ううん良いのさ、楽しいからと少年は続けた。
餌を待っていたスズメ達はあっという間に大きく成長し、ーそれは、喩えるならば幼少のかぐや姫のようにーその中でも1羽は、今にも遥か宙を舞って、何処か遠くを目指して飛び立とうとしていた。
そのスズメの目尻には、桜の花びらの様な可愛らしい模様があった。
「きっとかれは、これから春にむかうんだよ。」
少年は続ける。
「お兄さんも、この数日間でわかったでしょう?生きるってのが、どういう事か。君が今まで見てきた全てのものたちは、生きていたんだよ」
少年は、鳥の羽ばたく後ろ姿を見つめ、歌い出した。
シャボン玉飛ンダ
屋根ヨリ高ク
フーハリフハリ
ツヅイテ飛ンダ
シャボン玉イイナ
オ空ニ上ル
上ッテ行ッテ
帰ッテ来ナイ
フーハリフハリ
シャボン玉飛ンダ
「ちょっとしたことでさ、いつもこうしてせなかを押してあげるんだ」
「ずっと、君にこの歌を聞かせてあげたかったんだよ、お兄さん」
少年はそう言って、にぃと笑った。
「ねえ、お兄さん」
「なんだい」
「どうして、お兄さんは死んでしまったの?」
そんな、夢を見た。
四季 終
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