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第1章 春
第1章 春 6/21
ある、春の夢を見た。
淡紅色の桜が咲く情景を、荒く風が壊していくのを見送る、僕がいた。
宙を舞った桜の花びらは春の小人達のよう。彼らは麗らかに歌を詠っているようで。
春陽をおびて淡く、暖かな微笑みを世界にふりまいていた。
活きた春の陽気である。
遠くに見える小屋の住人も今日は特別引き戸を開いて、外に広がった春の空を見上げていた。
僕はそんな空を眺めることも、花びらに心を揺らすことすらせずに下を向く。
足元、散った花びらはもう泥をかぶって見えなくなっていた。
小人の歌はもう、聞こえない。
初めから無かったのと同じになっていく。
はぁ、と小さくため息をついた。
花びらは抵抗することもなく風にただ、流されていくから
僕はその、一辺倒な生き方にほんの少しだけ腹が立つ。
記憶の中には未だ、枝に咲く花も、宙に咲く花びらも、
遡れば、緑だったあの頃でさえ残っているのに
嘲笑うように彼等は形を変えて、やがて消えていってしまう。
ただそこに在った記憶だけ残して、無責任に。
そんな夢を見た。
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