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5
「!?」
わけが分からない。ヨータは狂ってしまったのか。
危害を加えてくるこの男をなんとか遠ざけようと、私は彼を叩いたり押したりと格闘した。しかしそんな私の手をヨータは捕まえ、ベッドに押しつけ、そして唇に口づけようとする。
「や……っ!」
私は頭をがむしゃらに振って、ヨータのキスから逃れた。
「なに考えてんの!? アホ! 盛ってんじゃないよ! サル!」
叱って怒って罵倒して、そうすればヨータは私を離すはずなのだ。しゅんと反省して、謝ってくる。それがいつものこいつなのだから。
だが今夜のヨータは、私の罵声に動じない。それどころか、言い返してきた。
「やったのかよ! 婚活男と!」
「し、してないよ! 中断して、今日はそれっきり!」
なんでこんなこと、こいつに報告しなければいけないんだ。不愉快ながらもとりあえず答える。するとヨータの体から、ふっと強張りが解けた。が、それもわずかな間のことで、すぐにぎりっと奴は自身の唇を噛んだ。
「でも、いつかは……。みゃー姉ちゃんは、ほかの男のものになって……! 俺とはもう会わなくなって、話したり、一緒に料理したり、できなくなる。――もう嫌だ。こんな想いをするのは、嫌だ! 先のことを考えて、絶望するのは嫌だ!」
ヨータは更に体重をかけて、私にのしかかってきた。私の足の間に自分の太ももをねじ込み、ぐっと開く。そして股間同士が当たるよう、卑猥に腰を揺らした。
服の上からとはいえ敏感な場所に、硬くて大きなものが当たり、私はぎょっとする。
「ちょ、やめて! なにしてんの!? なに……!? 変だよ!」
いくら暴れても、ヨータは冷たい目で私を見下ろすだけだ。
結構な力で抵抗し続けたのに、少しも自由にならない。やがて疲れて動けなくなった私の体に、ヨータは乱暴に吸いついてきた。頬に、首に、胸元に――。
「やっ……!」
ヨータは私のボロボロになったシャツの前を払い、ブラジャーをずり上げた。裸の胸を見て、はっと息を飲んだが、すぐにそこに噛みつく。
「いった……!」
私が悲鳴を上げると歯を立てるのはやめて、その代わり乳首を吸った。
「やだ……!」
「勃ってきた……。気持ちいい? みゃー姉ちゃん」
「いいわけあるかっ……!」
痛みを与えられたと思ったら、妖しく優しくされて――。
ひどいことをされているのなら、分かる。殴られたり蹴られたり、小さい頃はそういうケンカもしたもの。
でも――これはなに?
私はなにをされているの。ヨータはなにをしているの。
これはまるで――。
――男と女の。
意識した途端、全身に鳥肌が立つ。
「離して!」
だってヨータはそういう存在じゃない。
弟の親友、弟のおまけ、もう一人の弟。
「男」ではない。
――なりたくない。こいつと、男と女の関係に、なんて。
大切な過去の日々が壊れてしまう。それは私にとって、大いなる恐怖だった。
残っていた力を振り絞って身を捩り、なんとかヨータの大きな体の下から這い出す。転がり落ちるように床に逃げるが、しかしすぐヨータは私のスカートのウエスト部分を掴み、軽々と引っ張り上げた。
「あっ……!」
荷物かなにかのように私を吊って、ベッドの上に落とすと、ヨータはうつ伏せにうずくまっている私のスカートを捲り上げ、尻に頬ずりした。
「やめて! やめろ!」
声を張り上げても、やはりヨータは手を止めない。私のタイツと下着を一緒に引き下げると、尻を割った。奴の視線が、私の恥ずかしいところに集中する。
「やっ、やあ……っ!」
「姉ちゃんの……。すげ、いやらしい……。肛門まで丸見えだよ。こんな色してるんだ……」
「やめて! やめてやめて! 見るな!」
広げられた性器の中に、指が入ってくる。濡れていないから、痛く、苦しい。同時に奴の別の指が、前の肉芽を捉える。
「やっ……!」
おぞましい感触に、私はシーツを握り締めて耐えた。
ヨータは間違いなく、女の体を知っている。どこをどういじれば女が悦ぶか、分かっている。
せめて、つらいままなら良かったのに。不甲斐ないことに私は蜜を溢れさせ、性器を潤してしまう。それを見計らい、ヨータの指が前後に動き出した。
「んっ……!」
やり過ごしたいのに、私の内側はぎゅうぎゅうとヨータの指を噛む。
私の意思なんてお構いなしに、もっともっと気持ち良くして、と。
――悔しい。
「びしょびしょ……」
興奮と嘲りが入り混じった、ヨータのつぶやき。私の頬は、恥辱のせいでカッと熱くなった。
二本に増やされた奴の指は、医者の診察のように丹念に私の内側を探ると、ようやく去っていった。ほっと息を吐くのもつかの間、なにか硬いものが膣口に当たる。
嫌な予感がして、うつ伏せのまま顔だけ後ろを向く。そこには堂々と反り返ったペニスを晒す、ヨータがいた。
ヨータはまた私のスカートのウエストを掴み、引っ張り上げた。
「やめて……!」
腰を突き出すような格好にさせられた私は、情けないことに泣いてしまった。
怖い。ヨータが怖い。
今まで信じてきたものが、崩れ去っていく。
ヨータと目が合うと、奴は一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに笑った。
――その表情は、いったいなに?
ヨータが顔に浮かべたそれは、まるで復讐を遂げるかのような、晴れ晴れとした笑みだったのだ。
笑ったまま、あいつは後ろから私を刺し貫いた。
「あっ……!」
パンパンに肥え太った陰茎が一息に奥までを蹂躙し、引いて、また押し入ってくる。
それを五回ほど続けて、ため息と共にヨータは動きを止めた。
「あー……。姉ちゃんのまんこ最高」
「うるさい……! あんたなんか死ねばいいのに!」
私は呪いの言葉を吐き、拳を握った。頭上からクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてきて、ますます感情を逆なでする。
「ひでーなー、姉ちゃん」
ヨータは一旦ペニスを引き抜くと、私をごろんと仰向けにひっくり返した。そして私の目から天井の灯りを遮るように、馬乗りになった。
「もっと早くこうすれば良かった。ていうか、できるんだな。できたんだ……」
ぶつぶつと、ヨータは意味の分からないことをつぶやいている。
やっぱりこいつは、おかしくなってしまったんだ……。
「嫌われたらどうしようとか、もう二度と会えなくなったらどうしようとか、そんな心配ばっかりして! でもどうせ俺は、姉ちゃんがほかの男のものになったら、耐えられるわけがないんだ! だったらもっと早く、早く、こうしておけば……!」
最後は吠えるように叫びながら、ヨータは私の両足を脇に抱え、中心にペニスを突き入れた。
「んっ……! ぐ……!」
雄の侵入の衝撃に息を詰まらせ、呻くことしかできない私をよそに、ヨータは猛然と腰を振っている。
「あっ……! イク……っ! 姉ちゃん、イク!」
「やめ……! 中は絶対ダメ!」
「なんで?」
青ざめる私に対し、ヨータは余裕綽々に微笑んでいる。
「姉ちゃん、子供欲しいんでしょ? ちょうどいいじゃん。俺の子、産んでよ」
私の夢を、随分軽く言うものだ。
さすがにカチンときて、私は大声を出した。
「私の相手はあんたじゃない!」
白馬に乗った王子様を望んでいるわけじゃない。容姿不問、収入がそこそこあって、優しい人ならばそれでいい。
地に足がついた希望を叶えるため、こっちは頑張っているというのに。
孕ませればいいという、安易な考え。人のことをあまりに馬鹿にしているじゃないか。
涙の滲む目で睨みつけると、しかしヨータは私の言葉にぶたれたように泣きそうになっている。
「俺じゃない……? なんでだよ! こんなに! 俺は姉ちゃんのことが! 姉ちゃんのことだけなのに!」
なんだよこいつ、被害者ヅラかよ! 泣きたいのは、私のほうだ!
「どうせ……」
ヨータの眦が吊り上がる。私を見詰めるその目には、燃え盛る激しいなにかが宿っていた。
怒っているの? それとも、憎くてしょうがないの?
ヨータは私の足を開き、高く掲げると、腰を打ちつけた。陰茎の先端でガツガツと奥を叩かれ、そのたびに私の目の前に火花が散る。
私の内側でブクっと、ヨータのペニスが膨らむのが分かった。弾け散るときが近いのだろう。
「やだ! やだあ! やめて! お願いだから! それだけはいや!」
私は最後の力を振り絞ってもがくが、ヨータはびくともしない。やがて奴の動きは止まり、膣内の陰茎が大きく跳ねた。
「あ……。気持ちいい……」
「ああ……!」
何度も何度も震える陰茎が、精液を吐き散らかしているのを感じ、私は脱力した。――やられてしまった。
絶対許すものか。頭の中で殺意をメラメラと燃やしながら、もう半分の脳みそでカレンダーをめくる。
前の生理が終わったのは三日前だ。だったら妊娠の可能性は低いだろうか。ひとまず安堵する。
「ちょっと……。気が済んだならどきな。クソ野郎!」
いまだ私を組み敷くヨータの顎を、私はぐいぐい押した。
今までは可愛いと思っていたこの男が、今は得体の知れない乱暴者にしか見えない。殺してやりたいと思うのに、しかし嫌いになったかというと、そういうわけでもなかった。なぜなのか、自分でもよく分からない……。
とにかく早く一人になって、頭を冷やしたい。しかしヨータは私の上からどこうとせず、あろうことか私の股間に触れてきた。
「ちょっと!」
「まだだよ、姉ちゃん。だって俺ばっかり気持ち良くなって、姉ちゃんまだイッてねーだろ」
「余計なことしなくていい! いいから早くどけ!」
しかしヨータは生真面目な顔をして、あいつと繋がったままの私の性器を親指の腹で撫でた。そしてぬるぬるとした体液を、クリトリスに擦りつける。
「んっ……! やめ……っ」
――力が抜ける。
ヨータは指を動かしながら、ゆっくりと腰を振った。
「うわ、ぐちゃぐちゃだな……。俺、すごく出したから……」
凶暴な昂りから冷めて、少し柔らかくなった亀頭に、肉壁を擦られる。クリトリスの表と裏を同時に刺激されて、私の膣道はいやらしく蠢いてしまった。
「やっ、ん……」
「あ、これ、俺も気持ちいい……」
「あっ、ああ、ん……っ!」
ヨータが腰の動きを早めると、私は呆気なく達してしまった。
全身が火のように熱くなった直後、汗が噴き出す。
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