センベツノウタ

　失踪事件はさらに広がり、やがて〝歌声〟の件が取り沙汰されるようになった。失踪する人間はその前になんらかの歌声を聞いているというのだ。
　最初の失踪が確認されてから一月が過ぎ、累計の行方不明者数は日本だけで二千万人とも言われていた。

　島田さんが言っていた通り、大多数は犯罪に関わる人間だった。ただ、残りの失踪者にはある種の偏りがあったのだ。政治家、報道機関、警察関係者など権力を持つ側の人間に失踪者が多いことが明らかになった。その結果、政治やマスコミはまともに機能しなくなり、世界は一時的に沈黙した。

　最終的に失踪が止まったのは二ヶ月を過ぎた頃だ。日本の総人口は三分の二まで減っていた。
　指導する立場にいた人間の大多数が入れ替わり、世の中はしばらく混乱していた。しかし、残された人間たちは生きるために協力することでこの難局を乗り切った。

　あの失踪事件の真相を知るものは誰もいなかった。特定の人間が痕跡すら残さずにいなくなったという結果のみを残して。