センベツノウタ

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「沢木さん、なにかあったんですか?」 「わからん。何度も電話したが、連絡がつかない」  沢木というのは、わたしの大先輩の男性社員。一度定年となった後に再雇用され、シニアスタッフとして働いている。かつては部長職まで務めたぐらい仕事は出来る人なのだが、実は敵が多い。彼は何かにつけて注意するタイプで、いわゆるパワハラ気質の人なのだ。何度か部下を追い込んで辞めさせてしまい、そのせいで昇進が止まったと陰口を叩かれている。二度離婚を経験していて、今は一人暮らし。二度の離婚はどちらもDV紛いの暴力のせいだとまで噂されていた。とはいえ、時間はキッチリ守る人で、彼に限って無断欠勤などあり得ないのだが。 「病気とかじゃないですよね」 「外回りついでに島田に確認に行かせている。何もなければいいけどな」  彼はそれ程重要な仕事を任されてはいないので、業務が止まることはない。しかし、かつてないことでもあり、なんとなく落ち着かない気分のまま、時間が過ぎていった。
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