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間もなくお昼というタイミングで、課長のデスクの電話が鳴った。
「はい、伊原です」
課長は電話を取ると、すぐに眉をしかめた。しばらく声を潜めて相手と話していたが、受話器を置いて腕組みをした。
「島田からだが、沢木さん、家にもいないらしい」
「外出されてるんですかね」
「……まさか、とは思うが」
それだけ言うと、課長は黙り込んだ。何を言わんとしているのかはわかる。定年後の一人暮らしの男性が無断欠勤をした場合、考えられることは。一瞬背筋が寒くなったが、わたしに何か出来るわけでもない。
アパートの大家さんに連絡して鍵を開けてもらった結果、部屋には誰もいなかったらしい。沢木さんはどこに消えてしまったのか。その日は結局、彼のことは何もわからないまま一日が過ぎた。
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