センベツノウタ

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 実は随分前から失踪は始まっていたのだ。政府により情報が規制されていたが、このとき既に数十万人単位で人がいなくなっていた。  失踪した人間のうち、三割が受刑者、いわゆる反社的組織の人間が五割。残りの二割には政治家や警察官、大企業の経営者などが多数含まれていた。島田さんが言うように、ある特定の要素を持つ人間たちが被害にあっているとしか思えなかった。 「ほら、俺の言った通りだったでしょう。悪を消す組織が存在するんですよ」  島田さんが勝ち誇ったように宣言した。いくら沢木さんに恨みがあるからと言って、その言動は気持ちいいものではない。わたしは思わず反論していた。 「そうと決まったわけじゃないでしょう? 大体、悪い人をどうにかしているとして、手を下した人はどうなるんです? その人たちも誰かに消されるんですか」 「その辺は国から特別許可をもらっているんだろ。世直しなんだよ、これは。犯罪がこの世から消えるんだ。最高じゃないか」  犯罪がなくなることは確かに良いことだろう。でも、沢木さんたちは別に犯罪を冒したわけじゃない。少し周りに迷惑をかけたからと言って、失踪を喜ぶ感覚は理解出来なかった。
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