センベツノウタ

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 翌朝、わたしは耳鳴りがして目が覚めた。時計を見ると午前六時ちょうど。いつもならまだ寝ている時間だが、二度寝してしまうと間違いなく遅刻する。  わたしは顔を洗いながら、どこか遠くから声が聞こえてくるような奇妙な感覚を覚えた。学校は既に新学期が始まっている。餞別の歌の季節はもう終わっているはずだ。  オフィスのドアを開けると、腕組みをしている課長と目が合った。 「おはようございます。どうかされたんですか」  嫌な予感がして島田さんの席を見る。そこにはいつものグレーのお洒落なスーツを着た彼が座っていた。ただ、明らかに様子がおかしい。いつもなら、わたしに大きな声で挨拶を返してくれるのに、うつむいたままなのだ。 「島田さん、体調でも悪いんですか」 「……歌が」  わたしが聞くと、彼はポツリとつぶやいた。 「歌?」 「朝からずっと聞こえるんだ。綺麗な透き通るような歌声が」  課長に視線を送ると、彼は首を横に振ってため息をついた。 「出社するなり、ずっとこの調子なんだよ。……島田、今日の外回り行けるか?」 「……外回り?」 「今日はプレゼンが入っていたろう。体調が悪いなら代わりに相沢と俺で行ってくる」 「……行きます。そうだ、俺、行かなきゃ」  島田さんは急に思い立ったようにそう言うと、荷物も持たずに部屋を飛び出した。 「おい、島田!」  わたしたちはすぐに後を追いかけたが、それきり彼の姿を見ることは二度となかった。
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