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「ところで、廻国修行のことですが、あっしがこのざまじゃ、つづけるのはなかなか……」 「そのことは、あたしも思ってました。でも、廻国修行には剣術以外にも目的があるでしょう? そちらまで中途半端にはできません」 「その方面は、あっしの手下がなんとかするでしょうから、大丈夫でっさぁ」 「いえ、あたしが納得できません!」 「おー、でた。お嬢なら、そう言うと思ってやした」 「わかってるなら、いいんです。あたしはひとりで廻国修行を続けます!」 「本当に、頑固ですな、お嬢は……」  とバンは、こめかみを片手の指で挟んで頭を振った。 「おじさんは、父上のところに戻って養生してください」 「へぇ――いろいろ考えておきやす」  なんとなく気まずい雰囲気になったので、マヒワは帰ることにした。  その一方で、バンのお見舞いに来たのに、自分の言いたいことばかり言って、バンには労りの言葉さえ満足に掛けられなかったことを後悔した。 「おじさん、ごめんなさい。……お大事にね」  病室を出て行くマヒワの背中が、寂しそうなのを見て、バンは腕を組んで大きなため息をついた。 「……仕方がない。あいつに任せるしかねぇえか」  バンは窓越しにマヒワを見送りながら、何かを決めたようだった。
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