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「さっき着くなり、もうこれかよ」 「まずいな。マヒワさんも連れてきたのに……」  門衛たちは、一様に困った顔をしていた。 「何かまずいことでも?」  マヒワが門衛たちの後ろから声を掛けた。 「ああ、マヒワさん。……申し訳ないのですが、出番はないかもしれません」 「どういうことかしら?」 「お、怒らないでくださいね」 「怒ってません!」 「ひいっ!」  声にトゲがあったのだろう。  マヒワは門衛を怖がらせないように、深呼吸を重ねた。 「ごめんなさい。もう、大丈夫です。……それで?」 「いえね。最初に棒術の修練場にお越し頂いたときに、風来坊の兄弟子の話があったかと思うのですが……」 「ああ、天才肌ですごいんだけれど、自分勝手で、わがままで、ろくでもないヤツ」 「いや、そこまで言ってませんけど。当たってますが……」 「それで、あの人がその風来坊さんなの?」  とマヒワは犯人の前に立ちはだかる長身の男を指さした。 「そうです。彼が兄弟子のオハムです」 「ふーん。俺様が捕まえてやろう――、って訳ですか」 「そのとおりです。みんなの止めるのも聞かず、あのとおりです」 「ところで、あの人質を取っている男のほうは、武器で攻撃されたら、人質をつきだして、止めさせたところを反撃してくるんでしたよね」 「そうです。あの倒れている連中は、全員それでやられたんです」 「武器は何ですか?」 「鎌ですね。草刈り用じゃなくて、稲穂を刈る長い鎌です」 「それを人質の首筋に当てて、脅しているんです」 「要求はなんですか?」 「逃げた女房を連れてこい、です」
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