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「――は?」 「家事をなんにもしないから、逃げられたので、なんにもできないから、飢え死にしそうなんですと」 「生活力以前の問題ですね」 「まったく、そのとおりです」 「こんなしょうもないことをする元気があるなら、まだまだ死なないわ。飢え死にだなんて、片腹痛い、はっはっはっ」 「マヒワさん――何かありました?」  少し動揺して首を振るマヒワ。 「……極めて個人的な問題です」  と咳払いをして誤魔化す。  門衛たちの頭に、多数の「?」が浮かんだが、深入りすると危険そうなので、事件に集中することにしたようだ。  マヒワも目の前の事件に集中する。  人質は、たまたまその付近で遊んでいた近所の男の子らしい。  男の子の母親だろう、治安部隊の隊員に支えられながら、事態の推移を見守っていた。  目の前で倒されていく隊員たちを見るたびに、我が子の命も削られていくように思っているのだろう。顔面は蒼白でもはや失神寸前だ。  ついに、長身の棒術使い、オハムが動き出した。  マヒワはオハムの動きを観た。  ――まずは観察。  マヒワが、いま、コエンから教わっていることである。  ――すごい! 天才ね。  オハムの意図を読み取ったマヒワは、門衛たちをかき分け、オハムの横に滑るように移動した。 「御光流のマヒワ。人質は任せて!」 「おう! 任せる!」  言い捨てたオハムは、マヒワに先行して、手にした棒を犯人に向かって突き出した。  犯人は、自分に向かってくる棒の先に、男の子を楯のように差し出した。
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