15/32
前へ
/56ページ
次へ
 もう片手は後方に伸ばして、鎌でオハムのからだをなぎ払う構えをとっている。  オハムの突き出した棒の先は、ほんのわずかに方向を変えて、犯人と男の子の間に滑り込んだ。棒の先は螺旋を描きながら、こじ開けるように食い込んでいく。  たまらず犯人は人質を放した。  犯人から放たれた男の子を、マヒワが抱き寄せた。  マヒワは男の子と犯人との間に割り込むように入った。  鎌が伸びてきたら、剣を抜いて叩き落とすつもりだったが、その必要はなかった。  マヒワが顔を向けたときには、オハムは犯人を完全に棒で絡め捕っていた。  犯人の手にしていた長い鎌も一緒に絡めている。  オハムの絡め技は、マヒワが棒術の修練場で見せてもらったガラム師範の技よりも、遙かに疾く、そして美しかった。  ――すごい! 芸術だわ!  マヒワの、武術家としての純粋な想いであった。  くやしいけど、感動した。  そのような感動を受けたことは、おくびにも出さず、男の子を抱きかかえると、母親の元に運んだ。  母親は介抱していた隊員の腕から離れると、よろめきながら男の子に近づいてきた。 「大丈夫? 立てる?」  マヒワが男の子に囁くと、「うん」というしっかりした答えが返ってきた。  マヒワが男の子を床に下ろして立たせた。  母親が男の子をしっかりと抱きしめた。 「ありがとうございます! ありがとうございます!」  母親は泣きながら何度もマヒワに礼を言った。 「お母さん、あたしだけじゃなくて、ここにいるみんなでちからを合わせたんですよ」  マヒワが母親が立ち上がるのを手伝いながら言った。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加