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「わかりました――受けて立ちます」
とマヒワは、終わりの見えないやりとりに嫌気がさして、仕方なく、誘いに乗ることにした。
「いや、それはいけません!」
「マヒワさんに、これ以上のご迷惑はかけられません!」
「そんな、軽はずみを!」
門衛たちは、マヒワに考え直させようと、必死である。
「すばらしい! さすがは名にし負う剣聖さまであらせられること。このオハム、大変な名誉でございます」
「ふん、しらじらしい……。いいわ、あちらの広いところで仕合をしましょう」
と言って、マヒワは少しだけ先ほどの現場のほうに近づいた。
オハムも頷いて、マヒワに続く。
城壁の歩廊の中間で二人が対峙して、門衛たちが見守るかたちになった。
「一本勝負。あたしは剣聖よ。本気でかかってきなさい!」
――ひとつ、剣聖であることを否定しない。
コエン先生の教えである。
コエン自身は、否定もせず、肯定もせず、という姿勢でいただけなのだが、マヒワが勝手に「教え」に数えた。
「うーッ。かっこいいねぇ。惚れるぜ」
と軽口を叩いてはいるが、オハムはすでに棒術の構えに入っている。
マヒワもオハムの動きに合わせて、剣の柄を握り腰を落とした。
いま剣を抜かないのは、間合いを盗まれ難くするためだ。
オハムも同じように、棒を腰の右横から後方に伸ばして、マヒワから棒の長さを隠した。
さらに左手で棒の先端を隠すように持って、棒の姿が完全に消えた。
腰を落としてから、いくつ呼吸をしただろうか。
マヒワの左のこめかみを、突然、颶風が襲った。
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