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一
砦跡から救出されたバンは、ロウライの兵舎にある病院に入院した。
マヒワも何度か見舞いに行ったが、ほとんどの時間をスイリンが看病していた。
バンの包帯がとれて、多少動けるようになったころには、マヒワは孤児院のところで寝起きするようになっていた。
バンが動けないので、廻国修行はロウライの地で止まった状態である。
「あっしのせいで、お嬢様の修行が滞ってしまって、本当に申し訳ねぇ」
「気にしなくていいのよ、おじさん。この一件で、あたしに足りないものがみえたから、それを鍛えるために、もうしばらくロウライにいるわ」
廻国修行ができない代わりに、マヒワはコエンから剣術以外の大切なことを学んでいた。
今回の砦の一件で、そのときの勢いのままに、ずんずんいってしまうことがあまりよろしくないことを身をもって知った。
マヒワは、自身の置かれた状況を分析して、慎重に行動することをコエンから学んでいたのだ。
剣術についていえば、マヒワはコエンと実際に剣を交えて稽古をしてみたが、二人とも剣術の実力は伯仲していた。
マヒワが攻めの剣であれば、コエンは守りの剣だった。
マヒワの斬り込みに一歩も下がらず、その場にいながらすべての斬撃を防ぎきるコエンの剣技は、マヒワの御光流にはなかった。
「やっぱり、無理ですね。足の一つでも動かせば勝ちなのに……」
「それでは、攻守交代で」
「ええ、どうぞ」
今度は、マヒワが足元を決めると、剣を正面に構えた。
二人の剣聖の稽古を、自称マヒワの一番弟子であるライラが、離れたところから見学していた。
コエンが間合いを詰めて、打ちかかり始めた。
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