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 からだの軸を限りなく細く意識して、その体軸を保ったまま、からだ全体で衝撃を柔軟に受け流すようにしてみる。  たったこれだけの意識の変化で、マヒワの剣の捌きは劇的に変化した。  オハムの攻撃は、マヒワにとってもはや脅威ではなくなっていた。  からだの中心を貫く体軸を、極細の鋼の芯のように意識することが、孤児院で鍛錬を重ねた守りの剣の要諦だったのだ。  やがて、マヒワの足が止まり、腰を落とした姿勢のまま、オハムの攻撃のすべてを凌ぎ始めた。  オハムの顔に焦りが見えた。  しかし、オハムも()る者であった。  マヒワが剣を(さば)転瞬(てんしゅん)の緩みを捉えた。  オハムは棒の先をしならせて反転させると、マヒワの剣を絡めて、弾き飛ばした。  手から剣を奪われたマヒワは、後ろに飛び退いて間合いを取った。  あと一押しされたならば、マヒワの背は腰壁に付くところまで追い詰められた。  仕合を観ていた門衛たちも、手に汗を握っている。  思わず口に両手を当てている者もいた。  ふつう、他流試合なら同門であるオハムを応援するものなのに、全員でマヒワを応援しているのがありありとわかる。  はらはらしている門衛たちに対して、マヒワは追い詰められながらも冷静だった。  マヒワは指を揃えて右手を前に差し出した。  その指先は、オハムの眉間を指している。  マヒワは差し出した右手を煽って、オハムの攻撃を誘った。  この動作にはマヒワの考えた技が隠されていた。  影を打たせる――。  手を打たせるように誘って、(かわ)す。
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