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 手の甲を打たせるように誘って、裏返した手のひらで受ける。  このように、虚実を織り交ぜた技法を『影を打たせる』と名付けた。  マヒワが雷拳の長元坊に与えた課題に対して、マヒワなりに工夫したものだ。  オハムは、剣を飛ばされたマヒワが、苦し紛れに右手を剣に見立てて差し出したものと思い、手の甲を狙って棒の突きを繰り出した。 「――!」  棒の突きを出してから、オハムは自分のしくじったことに気づいたようだが、もう遅い。  マヒワは、棒が当たる寸前に手のひらを裏返し、棒を掴んだ。  そのまま腰を溜めて、オハムのからだを棒ごと根こそぎ引っこ抜いて、後方に放り投げた。  棒を突き出した勢いを利用されて体勢の大きく崩れたオハムが、宙に舞い上がる。  オハムは悲鳴を上げながら、胸壁を飛び越えて、壁の向こうへ落下していった。  ――まぁ! 麻袋を放り投げる鍛錬が、こんなところで役立つなんて!  と、場違いな感慨に耽っているマヒワの背後で、水槽から盛大に水柱が立った。 「ふんっ! 顔を洗って出直してこい!」  と啖呵を切るマヒワの雄姿に、門衛たちはただ見蕩れていた。  その晩はさすがにくたびれて、マヒワは泥のように眠った――。
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