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 翌朝早く、オハムとの仕合で確かなものを掴んだマヒワは、コエンに守りの剣の相手を頼んだ。  二人は菜園の隣の広場で剣を構えた。  ライラも傍で見取り稽古を決め込んだ。  コエンが滑るようにマヒワに向かって間合いを詰めてくる。  上下、左右の回し打ち、連続突き。  それらの打ち込みのことごとくを、腰を落ち着けたマヒワは上体だけの動きで防いでいく。  コエンは、いつもなら、打ち込みながら更に間合いを詰めるのだが、マヒワの受け流しが巧みなので、足を前に進めることができなかった。  マヒワが隙をつくって、コエンを誘う。  コエンが誘いに乗って、間合いを詰め、マヒワに足を掛けた。 「――!」  コエンに足を掛けられても、マヒワは不動だった。 「すごーい、ししょー。先生と動きが同じ」  ライラは素直だから、同じと言うのなら、同じなのだ。  マヒワの表情がうれしさのあまり緩んだ。  とたんに、コエンに投げられた。  地面に倒れたマヒワは、その体勢のまま、手足を思いっきり伸ばして、全身で喜びを表現した。 「やった、やった、やったー!」  マヒワの歓喜の声に合わせて、ライラも一緒になって飛び跳ねて喜んだ。 「すごいですね。わたしが十年かかって会得した技を、たった数日で極めなさるとは」  コエンも素直に感心していた。 「いえ、いえ、先生のご指導の賜物ですよ! 本当にありがとうございます! でも、うれしーっ!」  両腕を空に向かって振り上げて、「今日のご飯はおいしいぞーっ!」と子どものようにはしゃぎながら建屋の中に戻っていくマヒワを、コエンは暖かい眼差しで見送っていた。
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