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 朝ご飯の支度は、いつにも増して賑やかに行われた。  マヒワの喜びが、子どもたちみんなに伝播しているようだった。  カチェも、マヒワの足下ではしゃぎ廻って、あぶないくらいだった。  何度もこけたが、泣いたりしなかった。  さすがにコエンが引き離す。  ご飯を食べるときも、カチェはマヒワの膝に乗って食べた。  マヒワはカチェがご飯を食べるのを手伝いながら、昨日の事件とオハムとの仕合をコエンに語った。 「そのオハムさんの攻撃が正確で手加減のなかったことが幸いしたのですね」  と話を聞いて、コエンが評価した。 「そうなんです。おかげで、ぼやけていた体軸の感覚が、はっきりとわかるようになったんです」 「体軸の感覚がわかるのも、一つの才能ですよ。わからない者には、何年稽古してもわからないものです」 「でも、あらかじめ先生と稽古で打ち合ってなければ、この感覚には気づくことはなかったと思います」 「マヒワさん、それは違うでしょう。おそらく、御光流での百人抜きでその感覚はすでにあったはずです。いや、その感覚を掴んでいなければ、百人抜きはできません」  コエンの講評を聴いていて、百人抜きの後半で、ふらつきながらも倒れなかったのは、体軸があったからだ、とマヒワは思い至った。 「あたしは体軸の感覚を掴む機会に恵まれていたようですが、コエン先生は、どのようにして、その奥義に達せられたのですか?」 「わたしにも、その体軸の感覚を強烈に意識できた機会に恵まれたのですが、『恵まれた』という表現が適切であったとは思えません……」  と、コエンにしては珍しく言葉を濁した。
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