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 コエンは、それから口をつぐんで、子どもたち一人ひとりを見つめた。  ――く、空気が重い。この雰囲気は苦手だわ。 「さ、さぁ、カチェ、ご飯は食べ終わった? 終わったなら、お片付け、一緒にしようか」  マヒワは、掛ける言葉を見付けられなくて、仕方なく、カチェを巻き込んで場の雰囲気を変えることに決めた。 「すまぬ、マヒワ殿……」  マヒワの心遣いを察して、コエンが頭を下げた。 「先生も、洗い物手伝ってくださいね」  コエンは、皿に残った物を口に運び終わると、みんなに交じって後片付けを始めた。  マヒワの洗い方に蘊蓄をたれるコエンに、マヒワが軽口をたたき、子どもたちが笑った。  後片付けも終わって、みんなが一息ついていると、孤児院の表の通りを馬が駆けてくる音がして、そのしばらく後に、正面の扉を叩く音が聞こえた。 「はーい」  害意のある気配はないので、マヒワが扉を開けに行った。  扉を開けたマヒワは、外にいるものを見て、直ぐに閉めた。  マヒワの様子がおかしいのに気づいたライラが、駆け寄ってきた。 「ししょー、どうしたの?」 「ん、ええ。何でもない、ことない、かな……」  と、結局、何かあることを言う。 「誰が来たの?」  とライラは、マヒワの様子のおかしいことに頓着しない。 「どなたですかー?」  動かぬマヒワに変わって、ライラが扉を開けた。 「うわー! ライラちゃん、だめーっ!」  マヒワの制止も遅く、扉が大きく開かれた。  扉の向こうには、長身の男が大地に額ずいていた。
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