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と愚痴をいうオハムに、イラッときたマヒワは、
「それじゃ、交代。今度はあんたが弓をやりなさいよ」
といって、マヒワは弓と矢をオハムに押しつけた。
「でも、俺は二本同時にできないぜ」
「なら、一本ずつ射るしかないでしょ。あたしは、剣を遣う」
オハムは、騎射ができないので、近づきながら射ることにした。
弓矢はそれほど上手くないので、マヒワの急所を外すような器用な芸当などできない。
ただ、狙って放つだけだ。
オハムは矢を放っては、近づくことを繰り返した。
マヒワはそのことごとくを弾き飛ばす。
オハムは近づくことを止めない。
やがて、槍の間合いになった。
この間合いで行くと、矢が放たれるのを見たときには刺さっている距離だった。
いくら練習用とはいえ、矢がからだに当たれば突き立つような距離だ。
オハムは軽口を叩くが、武術に関しては冗談で済ませることができなかった。
オハムには、武術の極限まで求める精神が流れていた。
当然ながら、この至近距離であっても、弓を引く手にためらいは、ない。
――俺なら、この距離は無理だ。見せてもらおうじゃねぇか。
マヒワはからだの正面に剣を真っ直ぐに立てていた。
オハムは矢を弦に当てて両腕を分けた。
息を細く調え、マヒワに向かって、矢を放った。
弓弦の唸る音。
しかし、矢はマヒワから逸れた。
マヒワが剣を矢に当てて、外に流したのだ。
矢を斬ってしまうと、矢の先端はそのまま飛んでくる。
マヒワは、正面に立てた剣の極小の動きだけで、矢を払った。
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