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左からと思ったら右からの打ち込みに変化し、上から切り下ろした剣先が視界から消えると跳ね上がって顎下に――、コエンは攻撃の方向を自在に変化させ、息もつかせぬ打ち込みをマヒワにたたみ掛けていった。
マヒワはそれらの攻撃のすべてを上半身の滑らかな動きだけで凌ぎきっていた。
コエンは打ち込みを突きの動きに変化させた。
マヒワは瞬きもせず、無心の状態で、その変化にも対応する。
剣の動きを最小限にして、コエンの剣をからだの外側へ流していく。
コエンは突き出す動きに合わせて、更に間合いを詰めた。
「あーっ! 詰みました」
と叫んで、マヒワは大きく後方に飛び退いた。
「また、わたしの勝ちですね」
「くっそぉーッ!」
とてもお嬢様とは思えない言葉遣いでマヒワが悔しがった。
「どうして、ししょうが負けたの?」
「んーっとね。あのあと、あたしは先生の攻撃を避けるために、足を動かす必要があったからよ」
「でも、ししょうは、動いてないのに」
「たとえば、相手が必ず足を動かさないといけない状況にしちゃうことも、大切な技術なの。あたしは、先生の攻撃で、そのような状況に追い込まれたわけ。つぎの瞬間には、あたしの足は動いている。つまり、あたしの負け」
どう、わかった? ――というマヒワに、ライラが頷く。
「マヒワ殿の剣は、舞うように動くのが基本なので、居着くような動きには、からだが慣れていないのでしょう」
「その舞うような動きで、攻めきれないのが悔しいです」
「年期の違いですね」
「それなら、年をとればどんどん強くなるということじゃないですか」
「マガン殿は、マヒワ殿よりお強いのでは?」
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