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 払う流れでオハムの懐に飛び込んで、弓を断ち斬った。 「お見事!」  オハムはマヒワの度胸を畏怖した。  目の前に生死を超えた真の武人の姿があった。  オハムは、毎朝、マヒワと鍛錬の機会を持った。  棒術と槍術だけで過ごしてきたオハムにとって、剣術だけに留まらないマヒワの会得した武術の種類の多さは、驚異的だった。  マヒワのほうも、からだの頑丈なオハムに遠慮なく技を掛けた。  バンと一緒に練習していたときには、どうしても気を遣って手加減していた投げ技などの体術も、思い切り掛けることができた。  打突の技や徒手で武器を取り上げる技も、二人で掛け合いながら、工夫を重ねた。  オハムが風来坊の気質を封印して、マヒワとの修行に没頭していたところに、本来の師であるガラムが孤児院にやってきた。  コエンが出迎えて、食堂に案内しようとした。 「うへぇ!」  ガラムの姿を認めたオハムは、大きいからだをどこに隠そうかと、部屋の中をウロウロした。 「なんで、そんなに驚くのよ?」 「だって、師範が来たんだもん。ししょー、何とかしてください」 「ちょっとまって! あんた、ガラム師範のお許しを得てないの!」 「……」 「子どもかーっ!」  と二人で騒いでいるうちに、ガラムが部屋に入ってきて、 「よお、元気そうだな」  とオハムに声を掛けた。 「師範こそ、ご壮健のご様子、まことに……」 「まぁ、そこに座れや」  有無を言わさず、オハムに食堂の椅子に座らせて、その前にガラムが腕組みをして立った。  ――す……すごい貫禄。
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