30/32
前へ
/56ページ
次へ
 そばで見ているマヒワも、思わず唾を飲み込んだ。  オハムの大きいからだが二回りくらい小さくなったように見える。  オハムも、拙い展開だ、という自覚はあるようだ。  マヒワはコエンの横に移動して、一緒に成り行きを見守ろうと決め込んだ。  そんなマヒワとコエンを、ガラムはちらりと見て、 「この度は、オハムがご迷惑をお掛けして、申し訳ない」  それに対して、マヒワは軽く会釈を返すだけにした。  ガラム師範が、弟子のオハムに何かを伝えに来たようだったからだ。  ただ単に叱りに来たのではないらしい。 「おい、オハムよ。実は、おめぇに頼みがある」 「おぉ、師範! 何なりとお申し付けください」  叱られないとわかったオハムは、急に態度を変えて、愛想よくなった。  ――現金すぎて、あきれるわ。  それは、ガラムも同じらしい。 「勘違いするな。本来なら破門だ」  破門――。  武術家にとっては、活動の息の根を止められるのと同じだ。  オハムはすっくと立ち上がって、姿勢を直立不動にして、畏まる。 「実に腹立たしいが、お前にしか、頼めぬことだ」 「はい、師範。拝聴いたします」 「普通に聞け、バカ者!」 「はい!」 「実はな、王都のお家元から仕合に出ろと依頼があったのだ」 「――おもしれぇ」 「黙って聞け!」  師範の一喝に、オハムが背を伸ばす。  なぜかマヒワも。 「いま北方の騎馬帝国から王の見舞いに特使が来ている。その特使が武術の仕合を所望されたということだ」 「なぜ、千刻流なんかに……で、ありますか?」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加