8人が本棚に入れています
本棚に追加
師範にぎろりと睨まれて、あわてて言葉遣いを変えるオハム。
「王都にいる名だたる達人たちはすでに仕合をしたそうだ。その結果……」
「ことごとく負けた、と」
オハムの答えに、師範が頷く。
「王国の武術は遊戯のようなものだ、と酷評されたので、この千刻流に名誉挽回を託されたのだ」
「それは……」
とオハムは、自分の顔を指さした。
「そう、お前がいるからだ。あちこちで面倒を引き起こしとるから、このあほうに勝る者はないと、お家元をはじめ、みんなが思い違いをしてな!」
そう言って、ガラムは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「事実、お前は我が一門の中でも群を抜いて強いのだから仕方がない」
まことに腹立たしい――。
と、師範はまたぼやいて、「明日の朝、出立しろ。そうでないと間に合わん」と続けた。
「――承知しました」
オハムは最後になってようやく、神妙に返事をした。
ことの重大性に、ようやく気づいたようだ。
つぎの仕合で再び負けるようなことがあれば、オハム個人の問題では収まらず、この国全体の恥になりかねない。
ガラム師範が帰ってから、オハムは自分の部屋に籠もったきり、出てこなかった。
翌朝――。
「おとうとくん、がんばれ!」
と声を掛けたのは、ライラだった。
「おとうとくんが負けると、いちばん弟子である、あたしが恥を掻くんだからね! わかってる?」
「はい! いちばん弟子さんに、恥を掻かせぬよう、不肖オハム、がんばってまいります!」
オハムは長身を直立させて、ライラに応じた。
最初のコメントを投稿しよう!