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 コエンは封書を手にすると、封書の紙の質や封印の仕方などを確認して、封の中を改めた。  コエンに私淑するマヒワは、コエンの挙措の逐一を食い入るように観察している。  孤児院にきて、思いも寄らぬ長期間の滞在になっているが、いまだに観察することと、慎重に振る舞うことの勉強を続けていた。  コエンはいま、書面に目を通している。  その眼の動きから、なんども読み返していることがわかった。  コエンは、書面を読み終えると、丁寧に畳んで、封書に戻した。 「確かに、文書中には、『剣聖』とありますので、わたしも該当するでしょう。しかし、差出人の署名とマガン元帥がこのお手紙を託されたのであれば、これはマヒワ殿を想定した内容でしょう」 「でも、あたしには、荷が重すぎます」 「わたしにとっては、もっと重い」  二人のやりとりが何のことがわからないスイリンは、言葉がやりとりされるたびに、その方向に顔を向けるしかなかった。 「ああ、ごめんなさい、スイリンさん」  そう詫びたマヒワは、封書の内容をスイリンに語って聞かせた――。 「――ええっ! 帝国の特使が『剣聖』に仕合を所望されているのですか!」 「そうなのよ。王都の近郊にいた名だたる武術家が挑んだらしいのだけれど、全員負けたんですって」  先日、ガラムから聞いたことも思い出しながら、スイリンに説明した。 「……あれ? ということは、オハムも負けたのかしら?」  マヒワは、小首をかしげて、コエンの考えを求めた。 「手紙の文脈から判断すると、そのようですね」  コエンも断定はしないが、オハムの負けをほのめかす。
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