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「それで、このままでは、羅秦国の体面に関わる、と」  スイリンの言葉に、マヒワが頷いて、 「かといって、勝ったら勝ったで、外交問題に発展しそうな気がするし……」  今度はコエンが頷いて、「これほど勝ち様の難しい仕合もめずらしいですな――」と、顎に手を当て考え込んだ。 「それで、なぜ剣聖なのですか?」  とスイリンが当然の疑問を口にした。 「帝国の特使さんが、羅秦国の武術家は弱い奴ばかりだから、その『剣聖』というやつを連れて来い、って言ってるらしいわ」 「――と言う内容を、もっと上品にですが」  と、マヒワの乱暴な説明をコエンが修正した。  そこで、二人は顔を見合わせた。 「その『剣聖』……。その『剣聖』……? あたし、わかったかも……」  とマヒワはつぶやいて、コエンを見た。 「わたしも、いま、わかりました」  とコエンが言うのを耳にして、マヒワが大きなため息をもらした。 「……どうされました?」  スイリンは、何のことか少しもわからない。 「オハムが負けた理由よ」 「そのオハムさんは、千刻流棒術の天才とかいう、あのお方でしたね」 「武術の技量は、あたしと互角なのに、なぜあっさり? 負けて、その場で『剣聖』を出してきたのか……」 「剣聖として、お嬢様が仕合に出ることを想定されているのですね」 「技量が互角なら、あたしがでたところで結果は同じでしょう」 「自分は負けたけど、お嬢様なら勝てると思われたのでは?」 「あの喧嘩バカが負けるわけないでしょう! 絶対に、わざとです!」  と力説するマヒワに、コエンが、
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