8人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、このままでは、羅秦国の体面に関わる、と」
スイリンの言葉に、マヒワが頷いて、
「かといって、勝ったら勝ったで、外交問題に発展しそうな気がするし……」
今度はコエンが頷いて、「これほど勝ち様の難しい仕合もめずらしいですな――」と、顎に手を当て考え込んだ。
「それで、なぜ剣聖なのですか?」
とスイリンが当然の疑問を口にした。
「帝国の特使さんが、羅秦国の武術家は弱い奴ばかりだから、その『剣聖』というやつを連れて来い、って言ってるらしいわ」
「――と言う内容を、もっと上品にですが」
と、マヒワの乱暴な説明をコエンが修正した。
そこで、二人は顔を見合わせた。
「その『剣聖』……。その『剣聖』……? あたし、わかったかも……」
とマヒワはつぶやいて、コエンを見た。
「わたしも、いま、わかりました」
とコエンが言うのを耳にして、マヒワが大きなため息をもらした。
「……どうされました?」
スイリンは、何のことか少しもわからない。
「オハムが負けた理由よ」
「そのオハムさんは、千刻流棒術の天才とかいう、あのお方でしたね」
「武術の技量は、あたしと互角なのに、なぜあっさり? 負けて、その場で『剣聖』を出してきたのか……」
「剣聖として、お嬢様が仕合に出ることを想定されているのですね」
「技量が互角なら、あたしがでたところで結果は同じでしょう」
「自分は負けたけど、お嬢様なら勝てると思われたのでは?」
「あの喧嘩バカが負けるわけないでしょう! 絶対に、わざとです!」
と力説するマヒワに、コエンが、
最初のコメントを投稿しよう!