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 あの事変以来、王の記憶はいまだに戻っていないので、宰相がすべての政務を代行している。  このような外交問題の絡んだ件も宰相の裁量にあるので、「剣聖」と聞いて、マガン元帥に託すという流れになったとしても、何の不思議もない。  なぜなら、仕合に負けたオハムと剣聖マヒワとの関係を知らない者であれば、剣聖であることだけに注目して、 「これほど外交的にも繊細な仕合なら、父上がお相手をすればいいのに」  という同じ結論に落ち着くからだ。 「確かに、マガン元帥も剣聖であられますが、名声もおありだし、お年です。万が一、ここで不覚をとるようなことがあれば……」 「まぁ、それもわかりますけど。ならば、先生、いっそのこと、一緒に出場しましょう!」  マヒワが自分のひらめきに、両手を合わせて、瞳を輝かせる。 「剣聖が……束になってかかっていくのですか?」 「……なんだか、かっこ悪いですね」  コエンとスイリンに冷静に評価され、マヒワの瞳の輝きは、たちまち消えていった。 「はい、はい、わかりました!」 「マガン元帥が、このお手紙をマヒワ殿に託したという想いを汲み取れば、お引き受けなさる以外ないでしょう」 「それに本来『姫』であるお嬢様なら、このような外交の晴れの舞台にぴったりです」 「うう、胃が痛いよぅ……」  ――翌朝はやく。  オハムに続いて、マヒワも急に出立することになって、子どもたちは動揺を隠せなかった。  オハムのときと同じように、みんなは並んで見送ってくれているが、カチェはライラに抱きついて、マヒワの顔を見てくれようともしなかった。
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