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「テン――お疲れ様。無理をさせてごめんね」
帰宅したマヒワは、テンのからだを拭いて、休ませたあと、馬房に入れた。
その向かい側の馬房には、テンの母馬のツキがいる。
「……ツキ、久しぶりね。元気だった?」
ツキは高齢になったからなのか、近頃、体調によっては外に出るのを嫌がるらしい。
それでも、久しぶりにマヒワを見て喜んでいるようだった。
床を前脚で掻いて、早く来い、と言っている。
マヒワは、ツキの首を抱いて、優しく叩きながら、廻国修行のことを語り始めた。
マヒワは、馬たちがひとの言葉を聞いて理解していると信じている。
マヒワの話に聞き入るツキの眼差しは優しかった。
マヒワはツキの眼に母を見ていた。
「――思ったより早かったな」
声をした方に顔を向けると、マガンが立っていた。
「あ、父上。ただいま、戻りました」
「ずいぶん日焼けして、たくましくなったな」
「それは、乙女への褒め言葉とは申せませんが、うれしゅうございます」
「すまん、すまん。そうだな、マヒワも乙女であったな、ゆるせ」
「父上も、ご壮健でなによりです」
「うむ、あとでバンも見舞ってやれ。ふたこと目には『お嬢さま、お嬢さま』と、うるさくてかなわん」
「はい!」
マヒワのいないところで、バンがマガンに何を話したのか気になったが、廻国修行中の出来事は、マヒワから改めて報告する必要のないくらい、充分なされているようだ。
「バンを見舞った後で、居間に来い。今回の仕合について伝えることがある」
それだけ言うと、マガンは厩舎を出て行った。
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