10/12
前へ
/56ページ
次へ
 マガンに言われるまでもなく、バンを見舞うつもりであったマヒワは、厩舎をでると、荷物から見舞いの品を取り出して、バンの部屋に向かった。  バンの部屋の扉を叩くと、扉を開けたのはスイリンだった。 「あら、お嬢様」 「おじさんは起きてる? 入っても大丈夫かな?」 「――なに? お嬢!」 「あはは、声を聴くだけで元気そうだわ……」  どたばたと足音をさせて、バンが隣の寝室から出てきた。 「お、お、お嬢! また一段と、たくましくなられて」 「誰かと、同じようなこと言うわね。それに、また一段は余計だわ」  はい、お土産――。  とマヒワは持っていた酒瓶をバンに渡した。 「タイゲン村の飲み屋さんあったでしょ、あそこのおやじさんにもらったのよ。おじさん、浴びるほど呑んでたでしょ」 「ちょっと、お父さん! あびるほどって!」 「お嬢、あっしは、あっしは、うれしゅうございます」  娘の非難を軽く聞き流して、バンは、酒瓶を抱えて、おいおい泣き出した。 「いやぁ、あっしは果報者だぁー」 「おじさん、ずっと看病していたスイリンさんにも感謝しなきゃだめよ。それに、お酒を渡しただけなのに、果報者なんて、大げさな」  マヒワは、バンの怪我の治り具合を見て、充分回復していることに安心した。 「――それでも、以前のような身のこなしは、もうできやせん」 「そりゃ、何日もあの地下室に貼り付けにされて、拷問を受けていたんだもの。生きて出られただけでも、感謝しなきゃ」 「実はね、あのときは、水も食事もあたえられなかったんで、ここでもう最期だな、って覚悟してたんでっさぁ」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加