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マガンに言われるまでもなく、バンを見舞うつもりであったマヒワは、厩舎をでると、荷物から見舞いの品を取り出して、バンの部屋に向かった。
バンの部屋の扉を叩くと、扉を開けたのはスイリンだった。
「あら、お嬢様」
「おじさんは起きてる? 入っても大丈夫かな?」
「――なに? お嬢!」
「あはは、声を聴くだけで元気そうだわ……」
どたばたと足音をさせて、バンが隣の寝室から出てきた。
「お、お、お嬢! また一段と、たくましくなられて」
「誰かと、同じようなこと言うわね。それに、また一段は余計だわ」
はい、お土産――。
とマヒワは持っていた酒瓶をバンに渡した。
「タイゲン村の飲み屋さんあったでしょ、あそこのおやじさんにもらったのよ。おじさん、浴びるほど呑んでたでしょ」
「ちょっと、お父さん! あびるほどって!」
「お嬢、あっしは、あっしは、うれしゅうございます」
娘の非難を軽く聞き流して、バンは、酒瓶を抱えて、おいおい泣き出した。
「いやぁ、あっしは果報者だぁー」
「おじさん、ずっと看病していたスイリンさんにも感謝しなきゃだめよ。それに、お酒を渡しただけなのに、果報者なんて、大げさな」
マヒワは、バンの怪我の治り具合を見て、充分回復していることに安心した。
「――それでも、以前のような身のこなしは、もうできやせん」
「そりゃ、何日もあの地下室に貼り付けにされて、拷問を受けていたんだもの。生きて出られただけでも、感謝しなきゃ」
「実はね、あのときは、水も食事もあたえられなかったんで、ここでもう最期だな、って覚悟してたんでっさぁ」
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