11/12
前へ
/56ページ
次へ
「でも、そんな感じじゃなかったけど……」 「ときどきね、仮面を被ったおひとが、水と食べ物を持ってきてくださったんで、助かりました」  ――たぶん、先生だわ。 「あまり食べて元気だとあやしまれるから、これでがまんしろ、って言われたんですが、あれがなきゃ、いまこうしてお嬢に会うこともできなかったでしょう」 「お父さん! そんな大事なことをいまごろになって! コエン先生にお礼も言えてないじゃないの!」  スイリンも、仮面のひとが誰なのか、わかったようだ。  ――命の恩人の目の前で、スイリンさんと二人して漫才みたいなやりとりしかしてなかったんだから、そりゃ、怒るわ……。  マヒワは、心の中で、コエンに何度も感謝した。  バンの部屋を後にしたマヒワが居間に行くと、開口一番、「あやつはマヒワの知り合いか?」とマガンが唸るように言った。 「あやつって、千刻流のオハムのことですか?」 「ほかに誰がいる! 周りの者は誤魔化せたかもしれんが、わしの目は誤魔化されんぞ!」 「やはり、わざと負けましたか……」 「なんだ、マヒワは、そこまで知っておるのか」 「いや、なんとなく、そうじゃないかと……」 「勝負が決まったとき、聴衆にも聞こえるように、我より遙かに勝る『剣聖』がこの国にはいる、とぬかしよった。仕合のあと、ガラムと久しぶりに会って話しておると、マヒワの名が出てきた」  マヒワは、自分の口がときどき悪くなるのは、マガンの影響だ、といま確信した。 「確かに、そのオハムとは、廻国修行中に一緒に鍛錬をしていた時期があります」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加