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 国立競技場は、人であふれかえっていた。  歓声が地鳴りのように響いている。  観覧席の中央正面は王と王妃の座席なので、いまは空席である。  ほかが満席の中、王と王族の座席のところだけがぽっかりと空いているのは、異様な光景であった。  その空間の周りに、王に代わって国政を担う宰相をはじめとするこの国の重鎮たちが座っている。当然、準王族の面々であり、そのなかにマガンとアッカもいた。  王族と同列の、国賓の席には帝国の特使の一行が並んでいた。  マガンから受けた説明で、マヒワがいちばん驚いたのは、仕合の相手は特使その人ではなくて、実は、特使の護衛士だったのだ。  それまでの仕合も、その護衛士が闘っていたとのこと。  つまり、正真正銘の帝国の戦士ということになる。  当の特使は、絵に描いたような御大尽で、座っているだけで汗が噴き出しているような肥満体。とても武器を持って動くことなど、できそうになかった。  オハムが互角の勝負をするまでは、帝国の護衛士の圧勝だったらしく、羅秦国の武術界は完全に侮られた。  逆に、オハムとの仕合で、護衛士は武闘家としての魂に火が付いたようだった。  そのオハムから、「自分より格上の剣聖がいる」という話が出れば、剣聖と仕合をせずに、帝国に帰れるはずもない。  帝国特使一行の、王国での滞在期間は、かれこれ二か月を超えたらしい。  その間、羅秦国の重鎮たちは、腫れ物に触れるような思いで、接待をしてきた。
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