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 護衛士が中央に位置して、高まっていた歓声が落ち着いた頃、今度はマヒワが競技場に現れた。  先ほどよりさらに大きな歓声が上がる。  文字通り、羅秦国の威厳を一身に背負わされたような熱気がマヒワに押し寄せてきた。  そのような熱気に曝されているにもかかわらず、マヒワの表情は涼し気であった。  マヒワはいつもと同じように、髪を頭の上で一つに束ね、着慣れた剣士の練習着の出で立ちであった。  腰帯には模擬剣を差していた。  母の形見の帯鉤(バックル)を身につけているのも、いつもの通りだ。  真剣を遣った仕合ではないので、防具が革製の胸当てと鉢金程度の軽装であるのは、両者とも同じである。  マヒワは、護衛士と同じように、観客席に向かって礼をした。  面をあげたとき、マガンと目が合った。  マガンが軽く頷くのが見えた。 「剣聖が――女性であるとは意外な」 「しかも、まだ若いではないか」 「ほれ、見よ、あの特使も笑っておるわ」 「ほんとに、あのような若者に、このように大事な仕合を任せてよいのか」  ゴホンッ――。  さすがに宰相は真剣な表情を崩すことはなかったが、言いたい放題の重鎮どもに、マガンの聞こえよがしの咳払いが響く。  重鎮たちが、目の前の若い剣聖が、マガンとアッカの養女であることに思い至って、あわてて口をつぐんだ。  護衛士も、正直なところ、内心拍子抜けしていた。  先のオハムが自分との闘いで互角だった。  それよりも強いというので、さらに体格に優れた筋骨隆々の武術家を想像していた。  だが、いま目の前にいる剣聖は、真逆であった。
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