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 身長は自分の胸の高さくらいしかなく、体重は半分以下だろう。  しかも、女性となれば、筋力も勝っているはずもない。  からだをつかう勝負の世界では、身長が高く、体重があり、筋力の強い者が、絶対的に優位である。  つまり、自分に負ける要素がなかった。  護衛士の顔にも失笑が浮かんだ。  当のマヒワは、爽やかに一礼を終えると、競技場の中央ではなく、入退場口に向かって歩みを進めた。  そのまま退場しそうな勢いである。  観客がマヒワの行動を理解できず、急に静かになった。  護衛士もマヒワの行動を目で追うしかなかった。  マヒワはさすがに退場することはせず、その手前で歩みを止めた。  何かが出てくるのを待っているらしい。  やがてそれが姿を現した。  馬である。  馬方が手綱をマヒワに預けた。  マヒワは手綱を握って軽やかに馬に飛び乗ると、つぎに馬方から矢筒と短弓を受け取った。  そのまま、手綱を繰って、競技場のいちばん深いところ、護衛士とは最も距離の離れた場所まで移動した。  その場で馬に足踏みをさせながら向きを変えて、護衛士と正面に向かい合う。  このときすでに観客席からは予想外の展開に、大きなどよめきが沸き起こっていた。 「こ、これは、反則ではないのかな?」  羅秦国の重鎮のひとりが思わず口に出した。 「いえ――特使殿との取り決めでは、急所への攻撃は禁止、一対一で闘い、真剣を使わない。それ以外では、武器の種類や闘い方を選ばないとしております。違反ではありません」  と宰相が静かに応じた。
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