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「農作業をしていれば、自然に周りの状況を観察して、適切に行動するようになるのです」  というコエンの教育方針に誤りはない。  ――それで、子どもたちにも農作業に従事させているのか。  と、ここの子どもたちの能力と行動力の高い理由がわかった。  それにコエンは、自分では答えを知っているのに、わざと子どもたちに相談したり、聞いたりしていた。  子どもたちは、先生から頼られたものだから、自分で調べたり考えたりしないといけなくなって、物事に積極的に関わるようになる。  これが、いやいや物事をさせないための秘訣だ、と端から見ていてわかった。  マヒワも、ときどき同じように、コエンにのせられているのに気づくが、全く悪い気がしない。  ――教育者とは、こういうものなのね。あたしも、弟子を持つようになったら、真似てみよう。  と、すでに弟子のつもりであるライラが知ったら怒りそうなことを、マヒワは考えていた。  コエンの教育の賜物なのか、マヒワの農作業の腕もめきめき上達していった。  この日は朝から、孤児院の全員で収穫した野菜を麻の袋に入れ、荷馬車に積み込んでいた。  積み込み作業に勤しむマヒワの肌は、陽の光に焼けて、からだには筋肉がついてさらに引き締まっていた。  収穫物をパンパンに詰め込んだ麻袋を、腰を落として踏ん張って、荷馬車の上に放り投げている。  このまえ美しさに目覚めたことが一瞬あったようだが、もはや忘れているとしか思えない。  いまも、重い麻袋を放り投げながら、さらに高く遠くへ放り投げるコツを研究している。
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